悔し涙を流した3485チームにも拍手を 日本野球を支える大きな力

山口史朗
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 (23日、第105回全国高校野球選手権記念大会決勝 神奈川・慶応8―2宮城・仙台育英)

 6月17日、沖縄大会1回戦で連合チームの宮古工・宮古総合実が8―3で沖縄工を破った。

 宮古工・宮古総合実の2年生右腕、宮里大耶が最速144キロの直球を軸に完投した。沖縄工は九回に1点を返したが、追い上げは及ばなかった。

 これが第105回大会の「開幕戦」だった。それから2カ月あまり。史上7校目となる大会連覇まであと一歩だった仙台育英を含め、今夏も3千を超えるチームが敗れた。

 選抜覇者の山梨学院、準優勝の報徳学園(兵庫)も夏の甲子園に届かなかった。2年前の全国王者、智弁和歌山は和歌山大会の初戦で姿を消した。

 一方で、6校が春夏通じて初の甲子園出場をかなえた。105回の歴史を重ねてなお、初出場校が生まれる。

 これが日本の高校野球だ。

 10年ほど前、韓国の高校野球を取材した。アマチュア野球をまとめる大韓野球ソフトボール協会によると、全国で野球部のある学校は当時で約50校だった(現在は95校)。

 日本との大きな違いは、ほぼすべての部員がプロを目指す「エリートスポーツ」であることだ。

 協会の担当者は「日本の高校野球、甲子園のようなモデルを目指している」と言った。

 エリートスポーツのままでは、挫折した選手は働き口が見つからず、社会から落ちこぼれる恐れがあること、間口が小さいと競技レベルを高く保てないことなどを心配していた。

 韓国代表は、日本代表「侍ジャパン」が連覇を遂げた2009年の第2回ワールド・ベースボール・クラシックWBC)で準優勝だった。

 それが今年3月の第5回大会では、3大会連続の予選ラウンド敗退。3大会ぶりに世界一に輝いた侍ジャパンとは対照的だった。

 その日本代表を監督として率いた栗山英樹さん(62)は、今大会で始球式を務めた後に言った。

 「高校野球は日本野球の根幹」だと。

 プロなどの高いレベルを目指す選手、仲間と楽しくプレーしたい選手、それを支えるマネジャー……。

 競技レベルや役割にかかわらず、多くの高校生が参加するすそ野の広さこそ、日本の高校野球の最大の強みではないか。

 今大会の1回戦でバックスクリーンへ本塁打を放つなど、4強入りした神村学園(鹿児島)を引っ張った主将の今岡歩夢は、中学時代のチームでは5番手投手だったという。

 「まさか甲子園でホームランを打てる選手になるなんて。あきらめずにやってきてよかった」と自分自身に驚いていた。

 聖光学院(福島)では打撃投手だった湯浅京己(あつき)(阪神)ら、WBCで活躍した選手の中にも、高校卒業以降に花開いた選手がいる。すそ野が狭いエリートスポーツでは、こういった選手は出てこなかった可能性がある。

 朝日新聞社は、北北海道から沖縄まで広がる49の地方大会を「予選」とは表現しない。

 地方大会の1回戦から、この日甲子園で行われた決勝戦まで、等しく尊い「1試合」だ。

 負けずに夏を駆け抜けた慶応にはもちろん、大きな拍手を送りたい。

 一方で、悔し涙を流した3485チームの存在も、間違いなく日本野球を支える大きな力だ。山口史朗

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