第1回吹奏楽は、霊長類の社会の縮図? 研究者が行き着いたグルーヴの深み

【連載】すいエンス!吹奏楽を科学する

毎年、各地で熱演が繰り広げられる吹奏楽コンクール。「あるある」や悩みを科学的に掘り下げてみました。

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 「一体感のある演奏」。吹奏楽のコンクールや応援演奏を伝える記事で頻繁に見かける文言だ。実際、朝日新聞の過去記事データベースで「一体感」「演奏」「吹奏楽」の三つを含む記事を検索すると、500件超がヒットする。

 多くは、演奏後の吹奏楽部員による感想や、受賞団体に対する評価コメントだった。「テンポが正確」や「高音が伸びやか」のような言い方と比べるとあいまいで、分かるようでよく分からない。

 一体感とは一体何なのか、研究している人を探すと……いた。

 神戸学院大の河瀬諭准教授(音楽心理学)は演奏者間のコミュニケーションや「グルーヴ」について研究している。「演奏を通じて奏者同士や聞き手が結びつきを感じるのは、かなりプリミティブ(原始的)な感覚です」と話す。

 霊長類は群れの規律を維持するために、互いに毛づくろいをして関係を深める。集団の規模が大きくなるにつれ、一対一の毛づくろいでは効率が悪い。

 そこで集団で同じ動きをすることで絆を深めるようになったことが音楽やリズムの起源だとする説があるという。

 河瀬さんが研究するグルーヴとは、音楽などを聴いて気持ちが良くなり、体を動かしたくなる感覚のことを指す。

 「日本語だと『ノリ』が近い言葉でしょう。各国にも相当する単語があり、世界共通の感覚です」

低音が生むグルーヴ、つまり吹奏楽では…

 自らはドラムを演奏する河瀬さん。一体感について、「ジャズのビッグバンドなんかでは、奏者が互いに没入状態になってグルーヴをもたらすことを『グループフロー』と言います。動きのある吹奏楽でも同様でしょう」とみる。

 グルーヴを生む音楽には、いくつか特徴があるという。

 まず、河瀬さんは「リズムがそこそこ複雑であること」を挙げる。単調すぎても複雑すぎてもだめ。テンポは120程度で、ビートがはっきりしている方が、体が自然と動くらしい。

 音に関しては低音成分が大きい方がグルーヴが生まれやすいという。テューバやバスドラムなど、吹奏楽における低音楽器は縁の下の力持ちとみられがちだが、重要な役割を担っているのだ。

 こうした特徴をとらえた上で、「同期させること」、つまり演奏のタイミングが合うことでグルーヴや一体感が生まれる。演奏を合わせる技量の向上にはどうしたら良いだろうか。

 河瀬さんによると、タイミングについての先行研究では、演奏の音は0.1秒ずれると人の耳でも認識できる。「当然、他の奏者の音を耳でとらえてから合わせるのでは間に合いません。予測が必要となります」

 バイオリンなどの弦楽器では、手や指の動きといった視覚が、タイミングを合わせるのに一役買っていることが報告されている。

 「管楽器でも指遣いなど、お互いの動作を覚えておき、使えるものはすべて使うことがポイントでしょう」

これって人間社会の…

 加えて、演奏チーム内で意図や考えを共有することや、自身の役割を整理することが大事だという。

 「まず録音した自分の音と合わせてみてください。必ず合いますから」と河瀬さん。合うのは自分の演奏プランを自身は理解しているからだ。

 一人ひとりがもつ演奏の方法やプランを、どうやって一つにまとめるか。練習量だけでなく、河瀬さんは「売れているプロ楽団は、他の奏者とうまくコミュニケーションがとれている特徴があるという報告があります」と説明する。

 我を主張して議論ばかりするのではなく、互いの意見を聞いて調整できるか。指揮者らのリーダーシップも重要となる。ビジョンを示して各人が役割を理解し、自信をもてる雰囲気をつくることが、一体感のある演奏を生む土台となる。

 何だか吹奏楽にとどまらず、記者自身の仕事ぶりを改めるための金科玉条のような……と伝えると、河瀬さんはうなずく。「吹奏楽を含め、団体演奏は人間社会の縮図なんです」野中良祐

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