第6回63歳の元事件記者、保育の道を目指し短大へ 小さな命へ秘めた思い

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 月曜の朝は気が重い。1限目は大の苦手とするピアノの実技。これまで、ピアノは一切弾いたことがなかった。

 ピアノが置かれた教室で、出欠確認が始まった。「おはようございます。では、きょうは、緒方さんが1番目に弾く番ですね」。担当教員から声をかけられると、「はぁ~」と思わず深いため息をついた。クラスメートからは笑い声が漏れた。

 北九州市にある東筑紫短期大学。18~20歳の学生が多い中、63歳で今年4月に保育学科に入学した緒方健二さんだ。

 この日はバイエルの曲の仕上げだ。土日に1~2時間、練習して腱鞘(けんしょう)炎になり、右手首には湿布が巻かれていた。

 「ではまいります!」。黒のスーツに黒のネクタイ。背筋を伸ばして、ピアノに向かう。譜面には、一音一音「ドレミ…」の音階が手書きで記入されている。

 まずは片手ずつ演奏。「はっ!」。開始早々、音を間違えた。一瞬止まったが、すぐに気を取り直し、弾き続けた。両手で合わせて何とか弾き終わると、担当教員が「この曲は合格にします」。「あ、ありがとうございます!」。思わず、声がうわずった。

 元新聞記者。昨年、30年以上勤めた新聞社を退職した。事件記者として第一線で走り続けてきた。なぜ保育の道に?と聞かれることは多いが、事件記者の経験が今につながっている。

授業では、ピアノや裁縫、折り紙など、どれも初めてのことばかり。歳の離れた学生たちと一緒に授業を受ける様子を、動画でもお伝えします。

 大分県出身。父親は地元紙の…

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    氏岡真弓
    (朝日新聞編集委員=教育、子ども)
    2022年8月15日15時12分 投稿
    【視点】

    緒方さん! 思わず口をついて出ました。ザ・事件記者。 たとえば、with newsでは、こんな記事が。 「本物ヤクザはドラマと違う?命狙われない?専門記者が答えます」 https://withnews.jp/article/f0

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    奥山晶二郎
    (サムライトCCO=メディア)
    2022年8月15日21時31分 投稿
    【視点】

    新聞社を離れて考えるのは、ジャーナリズムの定義です。 報道にしかできないことはあるけれど、報道にはできないジャーナリズムもあるんじゃないかと感じています。 今日も、社会課題に向き合う事業会社さんとウェブ広告の打ち合わせをしてきた

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