ほろっと崩れるこんにゃく? 介護食、発想の転換(わたしの思い 浅野真)

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浅野真〈50歳〉
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「げんげの花」:8

 「弾力と歯ごたえのあるこんにゃくこそ、うまいこんにゃくと言われてきました。リクエストは、まさに真逆の発想を求められたのです。正直、困りました」

 群馬県下仁田町のコンニャクメーカー「茂木食品工業」の茂木進社長(55)の口から、こんな言葉が飛び出した。なるほどなあ。そして、思った。たぶん世の中の新発明や新開発の多くも、この「真逆」がヒントになったんだろうなあ、と。

 1月下旬、東京ビッグサイトで「メディケアフーズ展」があり、取材に行ってきた。いわゆる高齢者食や介護食の専門展示会だ。会場には大手食品メーカーと並んで地方の中小企業の姿もあった。その中で、足を止めたのが茂木食品工業の出展ブースだった。「新開発 ほろっと崩れるこんにゃく」のポスターがあり、つまようじに刺した試食用のコンニャクも置いてあった。

 群馬の下仁田(しもにた)といえば、コンニャクとネギの産地として知られる。私はかつて、群馬県の前橋市で勤務した経験もあり、懐かしさもあって、試食用をひとついただいた。

 ぷるんとした食感、しこっとした歯ごたえ。香りもこんにゃくそのものだ。でも、口の中でつぶれる。かといって、ゼリーのようにすっと溶けていくのではない。あ、こんにゃくだ、これ。営業担当の柳沢成光さんに聞くと、数年かけて開発にこぎつけたのだという。これは、おもしろい。同社を訪ねることにした。

きっかけは1本の電話

 2月の群馬、しかも山間の下仁田町は、いて付くような寒さだ。高崎駅から上信電鉄の古い電車に揺られること1時間ほど。下仁田駅のホームにおりると、ぶるっと震えがきた。

 駅からタクシーで15分ほど。山間地の国道沿いに、茂木食品の工場があった。コンニャクを作っている最中なのだろう、白い作業着を着た社員が大きなおけをもって工場内を移動している。さっそく、社長の茂木進さんに話を聞いた。茂木食品は、1960年創業で茂木さんは2代目社長だという。

 「実は、ほろっとこんにゃく開発のきっかけは5年前に、介護施設で働く管理栄養士さんからいただいた1本の電話だったんですよ……」。茂木さんはこう切り出した。

 「咀嚼(そしゃく)力の弱い…

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