(関西食百景)雨に魚影 琵琶湖の宝石

有料記事

文・青田貴光 写真・内田光
[PR]

琵琶湖のビワマス

 琵琶湖に「宝石」と呼ばれる魚がいる。ここに生息する固有種の魚16種の中で、唯一のサケ科。湖魚で最もうまい、と滋賀で語られるビワマスだ。

 湖面を雨が激しくたたく9月半ばの夜明け前。琵琶湖中部に浮かぶ沖島から、北へ向かう小型漁船に同乗し、漁を見た。

 水深60メートルほどの地点で船は速度を緩めた。西居英治(えいじ)さん(72)が刺し網をたぐり寄せる。前日、経験と勘を頼りに仕掛けた縦8メートル、幅35メートル。漆黒の水面に白い影が映り、銀白色の魚体が巻き上げられた。1・5キロほどある、まずまずの大物だ。

 西居さんが首をかしげる。

 「ビワマスは滋賀ではアメノウオ(雨の魚)ちゅうてな。雨だと豊漁のはずなんやが……」

 警戒心の強いビワマスは月の明るさ次第でさっぱりとれないことがある。前夜の雷も影響したのか、この日の水揚げは平均の半分に満たない21・5キロ。1キロ1500円で引き取られた。

 舌にとろっとくる食感は多くの料理人をうならせ、人気が高い。だが漁は不安定で、漁獲量はアユの20分の1ほどの年25トン前後。地元でもありつけない希少さから「琵琶湖の宝石」「幻の魚」とも呼ばれる。

 10月。禁漁期に入り、ビワマスは次の命を育むため、母川を懸命に遡上(そじょう)していく。だが、ビワマスの季節は終わらない。

上品な脂身 天然物に迫る養殖

 中山道の宿場町、滋賀県米原市醒井(さめがい)。県醒井養鱒(ようそん)場は霊仙山(りょうぜんざん)を仰ぐ峡谷にある。19ヘクタールの場内を清流沿いに進むと、防鳥ネットに囲われたビワマスの養殖池にたどり着いた。

 「人影や足音だけでも、群れはおびえ散ってしまう」と養殖担当者。エサの食いつきが落ちるため、ビワマスの機嫌には細心の注意を払う。

 出荷を控えた約2千匹が泳ぐ…

この記事は有料記事です。残り1500文字有料会員になると続きをお読みいただけます。

【お得なキャンペーン中】有料記事読み放題!スタンダードコースが今なら2カ月間月額100円!詳しくはこちら