(社説)外苑再開発 計画に固執せず対話を

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 東京の明治神宮外苑地区の再開発を問題視する声が高まっている。事業者は、広く対話を重ね、現在の計画にこだわらずに街づくりを進めるべきだ。

 計画では神宮球場秩父宮ラグビー場を場所を変えて建て替え、190メートルと185メートルの商業ビル、ホテル、スポーツ関連施設などを造り、樹木を伐採し植林する。36年に完成する予定。

 事業者は今週、3月の着工後初めての住民説明会を開いた。計画段階でも条例などに基づく説明会をしていたが、批判が広がるなか、380メートル圏内の住民らに限定して、任意で行った。

 事業者は三井不動産、宗教法人・明治神宮日本スポーツ振興センター伊藤忠商事。説明会で、球場とラグビー場の不便さや、外苑には自由に往来できる空間が少ないことを挙げた。内苑と外苑からなる明治神宮の維持のために、収益が見込めるとして「高層ビルが必要」とする。住民からは高層ビルによる圧迫感、景観、ビル風など環境影響、新球場の騒音や人流などの懸念が示された。

 700本以上を伐採する計画だが、日本イコモス国内委員会は、環境影響評価書に多くの誤りを指摘。大量の伐採や移植で生態系が壊れ、並木が維持できるかのデータも不十分などと主張している。中止を求めるネット署名は21万筆を超えた。

 神宮外苑は、旧青山練兵場の跡地に整備された人工の森で、1926年にできた。近代日本の文化的遺産で、緑や景観を守るために日本初の風致地区に指定されており、スポーツの中心地でもある。風致地区は建物の高さが都条例で15メートルに制限されていたが、2021年の東京五輪のメイン会場となった国立競技場を建て替えるときに80メートルまで緩め、22年には一部区域でさらに制限を緩和した。

 事業者はそれぞれ、環境保護や持続可能な社会への配慮や説明、伝統を尊重してきたはずだ。ESG(環境・社会・企業統治を考慮した活動)を掲げる会社はその考え方を遺憾なく発揮し、環境負荷のより少ない選択肢の比較検討にも意を用いてほしい。住民をはじめ多様な声を反映せずに強行しては、企業イメージも損なうだろう。

 小池百合子都知事は、事業者に説明を求めるばかりでなく、都への疑念や不安も正面から受け止め、計画の見直しも含めて、問題収拾に動くべきだ。

 事業者は説明会で、並木の調査などを踏まえ、必要な場合は野球場棟の設計変更など施設の見直しに取り組むとした。これにとどまらず、都心の緑豊かな憩いの景観を未来に残すすべを、住民や来訪者が納得できる方向で探る必要がある。

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