(社説)LGBT法案 与野党で議論を尽くせ
性的少数者の人権、尊厳を守り、差別をなくす礎となる法律へと、国会の議論でさらに練り上げなければならない。
「LGBT理解増進法案」をきのう、自民党がまとめた。2年前に超党派の議連で合意した法案を、法制化に反対する議員に配慮して修正したものだ。
差別解消を掲げた法案を野党4党が共同提出した16年、自民党は「理解増進法案」の概要をまとめたが、LGBT支援の「行き過ぎ」を批判する議員もいて議論は滞っていた。今回の動きは、主要7カ国(G7)サミットの広島開催を前に、各国に後押しされたことが大きい。
法案は政府や自治体、事業主らに対策を講じるよう求めており、現状把握や教育・啓発、相談体制整備など、これからの施策の拡充を下支えするものだ。
ただし、超党派合意による法案と比べ、理念の後退は明らかだ。第1条(目的)の「性的指向及び性自認を理由とする差別は許されない」という表現を削除し、第3条(基本理念)の「差別は許されない」を、「不当な差別はあってはならない」に変えた。
修正された経過をふまえると「正当な差別」や「許される差別」があるとのメッセージを放つことになりかねない。
性同一性障害をめぐる表現では、元の「性自認」という言葉をすべて、「性同一性」に置き換えた。いずれも対応する英訳は同じだが、自民党内の議論では、「自認する性」に基づく権利を守る規定にすべきでないとの意見も出たという。
当事者が公共のトイレや浴場で社会のルールに反した行動をするといった先入観に基づく発言も散見された。差別をなくすための議論で当事者をおとしめている事態は深刻だ。仮に女性トイレを安全に使えない状況があるなら犯罪対策の領域で、問題を取り違えている。不安やわからないことがあっても当事者の声を聞き、ともに解決の道を探すのが政治家ではないのか。
恋愛の対象が異性でない、法律上の性と自認する性が異なるといったことは、自分ではどうにもできないことだ。多くの人が結婚などの制度の壁や周囲の差別、偏見に悩み、自死する人さえいる現状は、見過ごしがたいものがある。差別の禁止をはっきり打ち出すどころか、温存しかねない法案は、当事者が抱える問題を解決する意志が自民党にあるのか疑念を持たせる。
当事者や支援団体は、差別の禁止や、同性間の結婚を認めていない法制度の見直しを、国会・政府に求めてきた。その第一歩となる法として、この法案が適切なのか、与野党で審議を尽くさねばならない。