性欲と加害欲は違う 峰なゆかさんが漫画で描いたAV業界のリアル

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聞き手・机美鈴 田中ゑれ奈

 元AV女優で漫画家、異色の経歴を持つ峰なゆかさん。今年、主に2000年代のAV業界を描いた漫画「AV女優ちゃん」が完結しました。自伝的要素を含みつつ、制作の過程やかかわる人たちを濃密に描いています。

 ――東京に出てきた峰さんがスカウトされ、直面した世界が描かれています。徹底したリアルな描写に強いインパクトがありました。

 元女優が業界を語るとなると、恨み節か、「私はエッチなことが大好きで」の2パターンになりがち。そのどちらにも分類されないものを表現したかった。

 みね・なゆか 1984年生まれ、漫画家・ライター。主な作品に「アラサーちゃん」「わが子ちゃん」など。「AV女優ちゃん」は累計18万部。「週刊SPA!」で「無敵ちゃんと隣のおっさん」を連載中。

 ――大量に精液を飲んで吐いたり、膣(ちつ)から潮を吹くために大量に水を摂取したり。過酷な現場に言葉を失いました。

 過酷という感覚はありませんでしたが、正気を失ってはならないと思っていました。AVに限らず、異常な環境というのは社会の至るところにあふれている。洗脳されないように、「正気を保とう」と言い聞かせていました。

 自分の体験や見聞きしたことがメインですが、取材した内容も一部含みます。AVメーカーに取材を依頼して拒否されたこともありました。

 メーカーからすれば、女優サ…

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この記事を書いた人
机美鈴
奈良総局|県政・教育担当
専門・関心分野
ジェンダー、性、動物福祉、化学物質過敏症
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    長島美紀
    (SDGsジャパン 理事)
    2024年9月6日1時25分 投稿
    【視点】

    峰なゆかさんの漫画は「アラサーちゃん」から大好きで、思い出すと何度も読み返す漫画のひとつです。 「AV女優ちゃん」ももちろん全巻持っていて、こちらも読み返すたびに、様々な気づきがあります。このインタビューに出ていないですが、サイン会で障害を持つ男性がAV女優をさらに卑下すること、そして障害を持つ女性がそれを隠してAVに出演していること、また見た目の悪い女性がAVに出演する映像を見た女性たちが笑う、というエピソードがあります。自分よりさらに弱い(とみなした存在)を攻撃する、またAV業界でも排除される存在がいることを描いたこの作品は、私たちは自分より下の存在をつくり、その下とみなした存在を攻撃することで、安心を得ようとすること、その結果加害に自覚的であれ無自覚であれ加担していること、峰さんがインタビューで述べられているように、社会のいたるところに溢れている「異常な環境」に洗脳される怖さも教えてくれます。 エピソードのひとつひとつが、私たちが、女性が性的に消費されることを半ば当たり前とする価値観で構築された社会で生きていることを認識させます。AV女優のスカウトの基準、過激化する撮影に至る過程など、それは特殊な業界の話ではなく、私たちの社会の縮図そのものであるように感じます。 6巻でAV撮影に参加していたAD君は悩み、偶然でくわした街頭デモに飛び入りで参加して、「レイプを許せない」と叫ぶ場面があります。AD君のように自らの加害性に気づくこと、そして自身も加害の当事者なのだと気づき、意識と態度の変容を行うこと。そしてそれが一人の行動ではなく、社会全体で変わること。その変容こそが、今こそ求められているのだと思います。

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    富永京子
    (立命館大学准教授=社会運動論)
    2024年9月6日8時28分 投稿
    【視点】

    「AV女優ちゃん」は単行本が出るたび面白く読みました。作中にはフラワーデモを模した「リーフデモ」など、社会運動の描写もありますが、単純に「善」「悪」「かわいそう」とくくられがちな事象についてジャッジせず、読む人の心に静かに重しを落とす点に惹

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