都知事選の石丸現象とは何か 「脊髄反射的」なメディア報道のリスク

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社会学者・西田亮介=寄稿

Re:Ron連載「西田亮介のN次元考」第8回

 最近の若い候補者は脊髄(せきずい)反射的かつ非常識的で目に余る。SNSやYouTube漬けの若者もこんな候補者を支持してばかりでいかがなものか――。

 先の東京都知事選挙、衆議院東京15区補欠選挙の結果を見ながら、そのように考えた向きも少なくないのではないか。

 特に前広島県安芸高田市長の石丸伸二氏は、都知事選後もメディアに出続け、同時にそのあり方について批判の矢面に立たされ続けている。

 確かに、都知事選の戦い方を見るにつけ、石丸氏の政策的主張や政治信念については気になる点が少なくない。たとえば、「政治再建」「都市開発」「産業創出」を三つの柱としたが、これは4年前に安芸高田市長選挙に出馬したときの公約の柱とまったく同じだ。

 その点を指摘された石丸氏は、「時間軸の違いです」と説明するが、人口3万人弱の安芸高田市と人口1400万人を擁する東京都で、同じ柱で選挙に挑む説明としては、どうも腹落ちしない。さらに、「産業創出」の項目に「教育の深化・進化」という項目(軸)があるなど、「柱」と「軸」の対応関係にも釈然としないところが残る。言うまでもないが、教育は産業ではないし、直ちに産業を創出しない。

 他方、テレビなど既存メディアへの厳しい批判や、インタビュアーへの冷徹な切り返し、選挙戦略、また政治活動としての切り抜き動画の許容を含めたSNS戦術は、安芸高田市長の4年間の政治経験やキャリアを生かしたもので、認知度の拡大に大きく寄与しただろう。

 なかでも石丸氏本人が「ミラーリング」と呼ぶ、批判的な質問には批判的に対応し、対立的な問いかけには対立的に対応することにしている手法は、ある意味「非常識」的で類を見ないものだったし、大きな波紋を広げた。およそ170万票という、都知事選とほぼおなじで複数人が当選できる参議院東京選挙区のトップ当選を上回るような得票数は、石丸氏からすれば「狙いどおり」で「大成功」というほかないだろう。

 一方で、報道するメディアの側が、石丸氏のこうした目新しさに引きずられ、脊髄反射的な報道をしているのではないかという点はかなり気になった。石丸氏の利益と、報道を通じて幅広い市民の知る権利を満たすという「利益」は必ずしも合致しないからだ。

 言うまでもないが、批判的な目線で後者の利益に資するのが報道の役割だ。その観点からすると、SNSを用いた戦術を支持拡大の「原因」に直結させるメディアに散見された報道には、違和感を禁じ得なかった。

 支持を拡大させた要因が動画拡散を誘発させたネット戦略だとする朝日新聞デジタルの記事「石丸伸二氏の躍進、ユーチューバーが一役 うねりはリアルな街頭にも」もそのひとつである。他の媒体でも、類似の論調はよく見られた。

〝仮説〟に懐疑的な姿勢を見せると

 ネット選挙や政党の情報発信に関してかねて研究してきたこともあり、選挙のたびに「目新しいSNSの使い方」について、テレビ、新聞、雑誌などのメディアからの取材依頼を受けることが多い。今回の都知事選や、つばさの党のネットを活用した活動が目立った先の衆院東京15区補選のような時には、依頼もおのずと増える。

 各メディア、とりわけ社会部はいずれも目新しい事象に興味津々で、選挙とネットの関係が新しい次元に入ったという〝仮説〟を前提に接触してくるのだが、それに否定的、あるいは懐疑的な見解を示すとなんとなく雲行きが怪しくなり、そのうち音信不通になっていく。今回はそれが顕著だった。

 だが、都知事選の年代別投票…

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    富永京子
    (立命館大学准教授=社会運動論)
    2024年7月27日20時29分 投稿
    【視点】

    石丸現象(があるとしてですが)の報道において、とりわけ「若年層中心の支持」を強調する姿勢には西田氏とはまた異なる角度から気にかかるところがありました。 例えば朝日新聞デジタルでは、何名かの識者が直接的間接的に石丸支持とSNS利用、若年層の

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