元をたどれば同じ派閥にいた。かつて首相を務めた先輩で、党内統治の重しになってもらっていた。それでも、目の前の危機を乗り切るには、その人の反対をも押し切らざるを得なかった。岸田文雄首相と麻生太郎・自民党副総裁との間には深い亀裂が生じている。
「あの日」から1週間以上、経っているのに、まだ麻生氏は怒っていた。「次も岸田でいいと思ってたんだけど、な」
6月8日の党福岡県連大会。麻生氏から呼び出された岸田派所属の自民幹部は、こう言われた。9月の総裁選でも岸田氏を支えるつもりだったが、心変わりした――。そう言いたげな言葉だった。
怒りは公の場での発言でも明らかだった。麻生氏は大会でのあいさつで、政治資金規正法の改正議論をめぐり、「民主主義にはコストがかかる。将来に禍根を残す改革は断固避けなければならない」と語った。
その8日前の5月31日。パーティー券購入者の公開基準額について、首相は自民案の10万円超を取り下げ、公明党が主張する5万円超を山口那津男代表との党首会談で受け入れた。麻生氏のあいさつは、誰の目から見ても公明案を丸のみした首相への当てつけだった。
首相も予想はしていた。「麻生さんは、そう簡単には納得してくれねえだろうなあ」。公明案の丸のみを決めた際、ため息まじりに周囲につぶやいた。
予想通りだった。
麻生氏は、与党党首会談直前…