第1回「何とか勝たせて」 岸田首相から突然の電話、ある自民党員の葛藤

有料記事王国の崩壊 解剖自民党

森岡航平

 25日朝、携帯電話に見知らぬ番号が表示されていた。気味悪さを感じながらも応対すると、相手は首相、岸田文雄の秘書だった。代わった岸田が言った。「何とか勝たせて下さい。よろしくお願いします」

 電話を受けたのは島根県安来市で金属加工会社を営む藤原敏孝(70)。「精いっぱい頑張ります。安心して下さい」。首相からの電話に驚き、そう返したが、複雑な思いはぬぐえない。

 4日前、藤原は岸田と一緒にいた。派閥の裏金事件を受け、岸田の肝いりで始まった自民の政治刷新車座対話の場だ。岸田は、衆院トリプル補選で唯一の与野党対決となった島根1区での応援に合わせ、党員との意見交換のため、山あいにある安来市の会場を訪れていた。旧伯太町の党支部長を務める藤原はトップバッターだった。

 衆院への小選挙区制の導入以降、全国で唯一、自民党が議席を独占してきたのが島根県だ。今回の補選の敗北は、有力議員の競い合いで自民が各地で強固な地盤を誇った中選挙区時代のモデルが、島根という最強の自民王国でも崩壊したことを意味する。小選挙区導入から丸30年。個々の政治家が地方議員らを従えて戦う手法は機能せず、党の看板に左右されるようになった。そうした選挙のあり方が、いよいよ島根に及んだ。選挙制度など歴史的背景を踏まえ、検証していく。

 「我々党員、恥ずかしい気持…

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    藤田直央
    (朝日新聞編集委員=政治、外交、憲法)
    2024年4月29日6時12分 投稿
    【視点】

    都市との格差を国会議員が利益誘導で支えるという、この島根のような自民党モデルは、高度経済成長が終わり、少子高齢化が進み、人口とともに国会議員の定数が減る地方でとっくに限界…そうした現実を物語る連載にもなりそうです。  自民党はそれでも政権を

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    岩尾真宏
    (朝日新聞名古屋報道センター長代理)
    2024年4月29日7時53分 投稿
    【視点】

    島根1区補選で、早々に自民党候補の敗北の報が流れた28日夜。補選に関わっていた旧知の自民党関係者は電話口で「これまで楽な選挙をやり過ぎてきた。この選挙で初めて保守王国が崩れたわけではない」と話していました。  2017年の衆院選は、細田博之

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