ストライキのある生活 権利の行使、みんなで練習すれば「怖く」ない

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朴沙羅さんの「欧州季評」

 暦の上では春のはずだが、私の住んでいるフィンランドのヘルシンキでは、ようやく雪が解けたころだ。日本では春闘も山場を超えたが、去年の11月から今年の春にかけて、フィンランドではストライキが頻発している。2月初めにはストライキの影響で国内の主要な空港が貨物と人の輸送を停止したため、フィンエアーは約550便を欠航させた。また国営鉄道VRや地方の交通機関がストライキを行っただけでなく、主要都市の各地で公立・私立を問わず保育園も運営を停止した。

 このストライキは、経営者ではなく政治に向けた「政治ストライキ」で、新政権による労働政策への反対を訴えるものだ。フィンランド国営放送yleによれば、現政権の掲げる労働政策のうち、有給でとれる病気休暇の最初の1日は賃金を支払わないこと、子供の数に応じた失業給付の増額を廃止、そして特別な理由なく雇用者側が労働者を解雇できるようにすること、の三つが強い反発を招いている。さらに、現政権が政治的ストライキを行える期間を1日だけに制限しようとする提案も、改革案の中に含まれている。

 フィンランド銀行総裁オッリ・レーンは、このストライキはフィンランド経済の回復と成長にとって重大なリスクになる、と懸念を表明した。労働組合からの強い反対に対して、経済大臣である真のフィンランド人党のヴィッレ・リュドマンは「プロパガンダ」を主張していると強く非難した。しかし、市場調査会社が2月に行った調査によれば、回答者の58%はこのストを支持しており、不支持35%、わからない7%を上回った。3月下旬時点でも、支持は徐々に下がりつつある一方、過半数から支持を得ていた。フィンランド労働組合中央組織SAKによるストは今月7日まで1カ月近くも続いた。

 日本の労働組合は企業別が中心だが、フィンランドを含む欧米諸国では労働組合は職業別・産業別に組織されている場合が多い。全国レベルの組合が存在し、そこが強いリーダーシップをとって、雇用者側と対決する。私は今、フィンランド全土の大学の教員と研究者を対象とするフィンランド大学教員・研究者組合に所属している。私の場合で言うと、職場や学長に対して、個人的にそれほど強い反発や対立したい気持ちもないが、産業全体で見て「これはよくない」と感じることがあったり、職場に具体的な不満があっても個人的に波風を立てたくなかったりするときには、この職業別の全国組合はありがたい。

 ストライキのある生活を体験…

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    本田由紀
    (東京大学大学院教育学研究科教授)
    2024年4月11日12時9分 投稿
    【視点】

    この記事で描かれているフィンランドの状況を読むと、日本という社会の奇妙な特徴が実感される。 労働者の権利行使としてのストライキがすっかり少なくなってしまっていることだけではない。経営者でもないのに経営者目線、為政者でもないのに為政者目線で、

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