TSMC誘致に向け、重ねた極秘交渉 経産官僚「賭ける価値がある」

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編集委員・大鹿靖明

TSMC誘致の真相①

24日に開所式を迎えた熊本のTSMC。なぜ日本に進出し、巨額補助金が投じられたのか、真相を探る。(全3回)

 経済産業省の情報産業課長、菊川人吾は2018年12月、翌年に打ち出せそうな政策の「弾込め」を考えていた。情報産業課は半導体産業を所管している。「日本の半導体産業はこのままでいいのだろうか」と思っていた。相談相手は、デバイス産業戦略室長の田中伸彦と課長補佐の門田裕一郎の2人の部下だった。

 田中は前のポストで、最先端の半導体を作るのに必要な極端紫外線(EUV)の露光装置の研究開発に関与した。門田は大阪大で工学博士を取得。技官の2人には深い知見があった。

 半導体は家電や電子機器、自動車に至るまであらゆる機器に組み込まれている。かつて「電子立国」と呼ばれた日本は世界の50%のシェアを誇ったが、いまや10%に凋落(ちょうらく)。熱処理や洗浄装置など半導体製造装置メーカーやシリコンウェハーなど素材メーカーはなおも強い競争力を維持するものの、最先端のEUV露光装置の開発はオランダのASMLが先んじ、日本勢は撤退した。

 「半導体の生産が海外に移る…

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