全盲男性、アマチュア無線1級に合格 受験断られても役所を動かした

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伊藤秀樹
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 30歳ごろ、駅や道で人によくぶつかった。夜になると、見えづらい。「おかしいね」。妻に言われて、病院へ行った。

 和歌山県紀の川市に住む北山卓嗣さんは、大学病院で精密検査を受けた。診断の結果、進行性の目の難病「網膜色素変性症」とわかった。医師からは将来、失明するかもしれないと告げられた。実感がわかなかった。

 視野はだんだん狭くなっていった。30代で車の運転はやめた。40代になると、ひとりで外出することも危なくなった。ただ、白杖(はくじょう)を使うことには抵抗感があった。「視覚障害者とみられるのが恥ずかしかった」

 ある年の忘年会の帰りだった。道から田んぼに落ちて足の靱帯(じんたい)を切った。世間の目を気にすることをやめた。

 50歳ごろに両目の視力を失った。

 県立高校の教諭をしていたが、病気が分かってから転任した県立盲学校で29年勤め、定年退職した。その5年後だ。仲間から誘われたのをきっかけにアマチュア無線(ハム)にはまりはじめた。

 免許取得が一番簡単な電話級(現在の第4級)アマチュア無線技士の国家資格は30代で取得していたが、無線を使っていなかった。

 無線機器を買い、無線局を開局。神戸市の愛好家と交信するようになり、より上の免許をとることを勧められた。上級の免許はより強い電波を飛ばせて遠方の人とも交信できる。もっとも難しい1級をとる、と周囲に宣言した。

 「受験したい。目が不自由なんやけど」。試験の実施機関に問い合わせた。だが、1級は点字受験しか対応していないという。中途失明で点字は読み書きできない。そう訴えたが、対応できないと言われた。

 さて、どうしたものか。

 障害者差別解消法には、障害…

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