働き方改革「逆行」の特例、医療現場で拡大 国や病院の事情が後押し

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枝松佑樹
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 長時間労働が常態化している医師の健康を守り、医療の質を担保するため、来年4月から「医師の働き方改革」が始まる。労働時間が短くなることによる地域医療への影響を抑えようと、宿直や日直を労働時間とみなさなくてよい「宿日直許可」を国と病院が増やそうとしているが、「改革に逆行している」との指摘もある。(枝松佑樹)

救急車少ない季節で申請→許可 院長「ただのテクニック」

 西日本のある病院長は今年、地元の大学病院長から「早く宿日直許可を申請しなさい。医師を派遣できなくなる」と再三求められ、労働基準監督署を訪ねて相談した。

 担当者に業務日誌を見せると、「救急車の受け入れ数がちょっと多いですね」「もっと診療時間を短くしてください」と指摘されたという。

 人手不足に悩む多くの病院は、宿日直許可を得られるかどうかは死活問題と捉えている。

 大学病院が派遣医師を引きあげれば、その病院は宿直を回せなくなり、閉院もありうる。また、許可のない宿日直は労働時間として扱わなければならない。許可があれば手当が通常業務の3分の1程度まで抑えることができ、運営上の負担軽減にもなる。

 許可を得るには、病院は過去1カ月の宿日直について業務の発生頻度、内容、対応時間がわかる日誌を提出し、監督官の実地調査を受ける。「深夜のみ」「病棟見回りのみ」など範囲を限定した申請もできる。

 各病院は、あの手この手で許可を得ようとしている。

 この病院長は、先に許可がおりた近くの病院に相談した。助言に従い、診療時間から検査結果の待ち時間を除くと、日誌上は患者1人につき平均60分から20分に短縮できた。さらに、救急車が少ない季節を選んで日誌を提出すると、許可がおりたという。

 病院長は「許可がおりるかどうかは、実態は関係なく、ただのテクニック」と話す。

 関東のある救急病院の経営者は、近くの同規模の病院は許可がおりなかったと聞き、「うちも厳しいかも」と焦った。実際にはしなかったものの、申請直前の1カ月間は救急車の受け入れを停止し、業務量を少なく見せかけることまで一時は計画したと明かす。

 大学病院側も、できるだけ地…

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