与党も大企業も推す現職相手に2万票 51歳が落選必至で挑んだわけ
演説会場には、数えるほどしか人がいなかった。それでも、挙手は途切れなかった。
「人口が減るこの街で、どんなことをしていくんですか」
「本当に無所属なんですか。裏で政党の支援を受けているとかありませんか」
黄色いジャンパーを羽織り、肩からたすきをかけた大柄の男性が、質問者の目を見ながら一つひとつに答えていった。
「出産ができる病院や保育所を増やします」
「政党の考えにしばられたくないので、どこの支援も受けていないです」
時には「よくわからないので、教えて下さい。これからみんなで話し合っていきましょう」と応じた。
会場となった市民会館の会議室に用意された64席のいすは、19席しか埋まっていなかった。だが、教育からインフラ整備まで様々な質問が飛んだ。
男性は田村弘、51歳。茨城県日立市長選に、無所属の新顔として立候補した。日本を代表する総合電機メーカー、日立製作所が創業したこの街では、1999年の選挙戦を最後に市長選の無投票が続いた。今年もそうなるだろう、という観測が大勢だった。
告示の1カ月前、田村が立候補を表明するまでは。
街を変えるのは、よそ者で、ばかもの
日立市は「日立製作所がくしゃみをすると、風邪を引く」と言われるほど、企業と街とが密接な関係を築き、企業城下町として栄えた。日立グループの労働組合の存在感も強く、市が含まれる衆院茨城5区では、自民党が推す候補と、労組が推す候補がしのぎを削ってきた。
落選必至、それでも田村さんが立候補した狙いと、選挙になったことで何が起きたかを取材しました。
ところが市長選では、「労使…
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