「残業代なし」変わるか 教員の給与改革、自民で3案浮上

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桑原紀彦

 教員の長時間労働が問題となるなか、文部科学省は今年、公立学校教員の給与制度の見直しに向けた議論を本格化させる。検討の対象になるのは、残業代を支払わない代わりに、基本給の4%を上乗せして支給すると定める「教員給与特措法(給特法)」。いくら働いても残業代がつかないとして「定額働かせ放題」と批判されてきた。議論はどのように進むのか。(桑原紀彦)

 「給特法が現状にそぐわず、学校現場に大きな不満がある」「職務遂行状況に応じて、相応の給与が支給されるべき」

 文科省は昨年12月、教員の処遇改善のあり方について検討する有識者会議を設置し、議論を始めた。2月24日にあった会合では、教員の給与をめぐって複数の委員から、何らかの改定を求める意見が出た。

「定額働かせ放題」半世紀前の制度

 給特法は、残業代を払わない代わりに基本給の4%を「教職調整額」として支給すると定める。「残業代なし」の仕組みに対しては、現場の教員らから「定額働かせ放題」と批判が上がる。

 給特法は1971年に成立し、翌72年に施行された。文科省によると、それより前は戦後にできた給与制度によって、教員の給料は一般公務員より1割程度高く設定されていた。勤務時間が一般公務員より長いとされたからだという。一方、制度的には一般公務員同様に残業代が出る仕組みになっていたが、文部省(当時)は校長らが時間外勤務を命じないよう通達を出し、残業代が生じないよう制度が運用されていた。

 しかし、実際には残業が常態化していたことから、60年代半ばごろから残業代支払いを求める訴訟が全国で起こされた。これを踏まえ、文部省は66年度、公立校教員の勤務実態調査を実施。その結果、小中学校の1カ月の時間外勤務は平均約8時間と推計され、①これに見合う基本給の4%を「教職調整額」として上乗せして支給する②残業代は支給しない――ことを柱とする給特法の制定に至った。

 それから半世紀。教員の働き方は大きく変わった。文科省が2016年に実施した勤務実態調査では、時間外勤務の平均は小学校が月約59時間、中学校が約81時間(いずれも推計)で、給特法の制定時と比べて大幅に増加していた。

 文科省は19年に、時間外の在校時間を月45時間、年360時間以内とするガイドラインを策定。さらに、これまで主に教員が担っていた業務について、登下校対応や学校徴収金の業務は「学校以外が担う」▽調査への回答や児童生徒の休み時間の対応は「必ずしも教員が担う必要がない」▽給食時の対応や授業準備は「教員の業務だが負担軽減が可能」――とし、各教育委員会に実施を促した。

 だが、教員の長時間労働が広く知られるようになるなか、教員採用試験は受験者の減少に歯止めがかかっていない。昨年春に採用された公立小学校教員の採用倍率は2・5倍で、3年連続で過去最低を更新した。

 国の調査によると、公立小中学校の教員の平均給与は月約41万円。年収ベースでみれば一般公務員(大卒)より10万円ほど高いが、文科省幹部は「教員の残業の多さをみれば、給与の枠組みを変えないと今後も民間企業に人材がどんどん流れる」と危機感を募らせる。

 こうした状況を背景に、文科省は22年度、勤務実態調査を6年ぶりに実施。今春、速報値を公表する予定だ。岸田文雄首相は今夏にまとめる「骨太の方針」に教員の処遇改善についての方向性を盛り込む意向を表明しており、文科省は有識者会議の論点整理も踏まえて、中央教育審議会(文科相の諮問機関)に給与体系の見直しを諮問するとみられる。

記事後半では、自民党内で浮上している三つの改革案の詳細と、それぞれの課題に触れているほか、識者の見方も紹介しています。

3案の詳細は

 中教審での議論の行方に大きな影響を与えるとみられているのが、元文科相の萩生田光一・自民党政調会長が昨年11月に立ち上げた党の「令和の教育人材確保に関する特命委員会」だ。

 「教師に優れた人材を確保できるよう聖域なき議論を行い、骨太の方針を見据え、政府に対する抜本的な改革案の提案に向けて議論を深めていきたい」。2月22日にあった会合で、萩生田氏は力を込めた。

 党関係者によると、特命委は勤務実態調査の結果発表に前後して新たな給与体系の提言をまとめる方向だ。これに向け、水面下で3案が検討されている。

 一つ目は、給特法を廃止し、会社員と同じように時間に応じた残業代を支給するというものだ。

 給特法の代わりに労働基準法が適用されると、教員側と管理職が時間外労働をさせる業務の種類や時間の上限を決める必要がある。労基法36条に基づく、いわゆる「36(さぶろく)協定」だ。党関係者によると、協定締結にあたって労働組合などと交渉する役目は学校ごとに校長や教頭が担うことが想定され、相当な負担が生じる可能性があるという。

 二つ目は、給特法を維持しつ…

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    内田良
    (名古屋大学大学院教授=教育社会学)
    2023年2月20日9時35分 投稿
    【解説】

    給特法の今後について、具体的な案が示されました。いずれの案でも数千億円規模の財源が追加的に必要とのことで、結局は財源確保の可能性に大きく左右されながら3案のいずれかが選ばれるのでしょう。 それにしても、公立校の教員だけが、給特法というこう

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    明石順平
    (弁護士・ブラック企業被害対策弁護団)
    2023年2月20日20時49分 投稿
    【視点】

    現在の公立学校は「公営ブラック企業」と呼んでもよい状況である。 いわゆる「ブラック企業」とは、要するに残業代を払わずに長時間労働をさせる企業だと解釈してよいが、公立学校はそれをやっている。 なぜ残業代があるのか。それは、残業した場合

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