妊娠に誰も気づけず 知的障害ある女性の乳児殺人、記者が感じた壁

有料記事

上保晃平
[PR]

 生後間もない男児を殺したとして、軽度の知的障害がある女性(24)が殺人罪に問われた裁判員裁判千葉地裁であった。どうすれば男児を守れたのか、女性の妊娠になぜだれも気づけなかったのか。そして、知的障害者をどう裁くのか。裁判を傍聴し、考えた。(上保晃平)

 事件が起きたのは2021年12月。知的障害がある女性が四街道市グループホームで出産し、男児を2階の窓から落として殺したという。

 女性は中古書店に障害者枠で採用され、自立した生活を送っていた。地域で一人で暮らす知的障害者の介護経験がある記者にとって、それは理想に近いケースだったと思えた。

 だが、現場に向かって関係者らに聞くと、女性がやや大柄で妊娠には気づかなかったという。男児の命は救えなかったのか。知的障害者が地域で暮らしていくためにも重要だと思い、裁判を傍聴することにした。

 昨年11月の初公判。女性は白いシャツに緑色のカーディガン姿で出廷した。検察側が起訴状を読み上げると、女性は「間違っていないです」と落ち着いた様子で起訴内容を認めた。

 女性は7歳で知的障害があるとわかり、小学2年で特別支援学級に移った。高校は特別支援学校に進んだ。

 証人の精神鑑定医によると、女性のIQは53(同年齢の平均が100)。軽度の知的障害だが、全体の下位1%より低い値だという。鑑定医は「感情を揺さぶられる体験が苦手で、衝動性が高い」「抽象化能力が低く、話を理解できても説明が苦手」と指摘した。

 一見したところそのような女性の特性はうかがい知れない。だが、女性が証言台に立つと事件の背景の一端がわかった。

職場の検診でも見過ごされた妊娠

ここから続き

 弁護人「生理が来ないと妊娠…

この記事は有料記事です。残り2097文字有料会員になると続きをお読みいただけます。

※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません

  • commentatorHeader
    太田泉生
    (朝日新聞コンテンツ編成本部次長=人権)
    2023年1月20日17時20分 投稿
    【視点】

    女性は地域で自立しているように見えて、孤立していた。社会と障害者の間には大きな壁がある--。 記事はこう指摘します。記者は地域で一人で暮らす知的障害者の支援に関わった経験があるといい、実感のこもった書きぶりです。 知的障害のある

    …続きを読む