抗インフル薬のタミフル、効果は微妙 それほど「特効薬」ではない

内科医・酒井健司の医心電信

酒井健司
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 医学の歴史上、「特効薬」はいくつかあります。結核に対するストレプトマイシン、1型糖尿病に対するインスリンなどです。最近では慢性骨髄性白血病に対するチロシンキナーゼ阻害剤、慢性C型肝炎に対する直接作用型抗ウイルス薬でしょうか。残念ながら新型コロナに対しては効果を示せませんでしたが、イベルメクチンもオンコセルカ症といった寄生虫疾患に対しては特効薬です。

 今回、新型コロナウイルス感染症に対して緊急承認された「ゾコーバ」は、新型コロナの有症状期間を8日間から7日間へ、約1日間短縮させる効果はありますが、重症化予防効果があるかどうかはいまのところはわかっていません。期待はしていますが、ひいき目に見ても特効薬とは言えません。

 同じような効果を示す薬に、インフルエンザに対するタミフルがあります。2014年に発表された、質の高い複数の臨床試験を統合した研究では、成人のインフルエンザの有症状期間を7日間から6.3日間へ、約17時間短縮させる効果が認められた一方で、入院や重篤な合併症を減らす効果は認められませんでした(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24718923/別ウインドウで開きます)。

 なんだか微妙な結果だと思いませんか? 公平のために申し上げますと、別の研究ではタミフルが下気道合併症や入院を減らすことが示されています。研究によって結果が異なることはときにあることですが、タミフルに特効薬と言えるほどの圧倒的な効果はないことははっきりしています。強い効果があるならそれぞれの研究で結果が異なったりせず、一貫した結果が示されるはずです。

 海外でも基礎疾患があって重症化リスクが高いインフルエンザ患者に対してはできるだけ早いタミフル投与が推奨されています。ですが重症化リスクのない患者に対しては必ずしも推奨されてはおらず、「使用してもよい」という表現になっています。実際、海外では日本ほどにはタミフルをはじめとした抗インフルエンザ薬は使われておらず、タミフルの消費量は日本がダントツです。

 日本でタミフルが広く使用できるのは、比較的低負担で医療機関を受診でき、すぐに検査・処方が可能な医療制度のおかげです。これは素晴らしいことですが、一方で、過剰な検査、治療が増えてしまうのは欠点です。タミフルを飲まないと治らないと誤解していたり、「検査してインフルエンザ陰性でも念のためタミフルをください」などとおっしゃる患者さんもいたりするぐらいです。

 患者さんのせいではありません。インフルエンザの検査をして、陽性ならとりあえずタミフルを5日間飲んでもらうといった安易な診療を行ってきた医師のせいです。本来であれば、インフルエンザは薬を飲まなくてもほとんどが自然に治る疾患であり、タミフルの確かな効果としては有症状期間を1~2日間短縮するぐらいで、重症化を予防する効果については専門家の間でも議論があることを患者さんに伝えなければならないはずなのに。

 タミフルに限らず、薬の効果や限界についてきちんと情報が提供された上で、患者さんが治療法を選択できるようにしていきたいです。(アピタル・酒井健司)…

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酒井健司
酒井健司(さかい・けんじ)内科医
1971年、福岡県生まれ。1996年九州大学医学部卒。九州大学第一内科入局。福岡市内の一般病院に内科医として勤務。趣味は読書と釣り。医療は奥が深いです。教科書や医学雑誌には、ちょっとした患者さんの疑問や不満などは書いていません。どうか教えてください。みなさんと一緒に考えるのが、このコラムの狙いです。