第3回「キャンセルカルチャー」が流布する理由 米国社会の分断を読み解く

 米国では党派や価値観による国民の分断が深刻化するなか、「キャンセルカルチャー」という耳慣れない言葉が流布するようになっています。この言葉に注目している上智大の前嶋和弘教授に、米国社会の分断について何が浮かび上がってくるのか、聞きました。

 ――キャンセルカルチャーとは、どのような言葉なのでしょうか。

 「キャンセル」は、多様性や公正を求めて、従来の文化や伝統、習慣などを否定し、消していくことを指しています。人種やジェンダー平等などの観点から、不適切な言動を否定し、ボイコットすることも含みます。

【インタビュー連載】 「多様の統一」はどこへ 読み解くアメリカ中間選挙

「アメリカの『多様の統一』というモットーは事実である」。米国の文豪スタインベックの言葉です。その「事実」が揺らぐ米国はどこへ向かうのでしょうか。11月8日投開票の中間選挙を前に識者に聞きました。

 この言葉が特に注目されたのは、2020年夏、黒人が差別や暴力に抗議する「ブラック・ライブズ・マターBLM)」運動が全米で盛り上がった時期です。運動の矛先は、米独立宣言を起草したトーマス・ジェファーソンら「建国の父」たちへと向き、彼らが黒人奴隷を所有していた事実から、全米各地で「英雄」の像の撤去を求める運動へと広がっていきました。キャンセルカルチャーという言葉は、こうした動きを批判的にとらえる形で広がっていきました。

 ――なぜ、像の撤去を求めるまで運動が強まったのでしょうか。

 1950年代からの公民権運動などが代表的ですが、米国で社会変革を求める動きは、文字通り血を流すような努力の中で少しずつ進んできたものです。暴力や破壊は違法行為でそれ自体は認められませんが、像の撤去を求める運動は、当事者からすれば、過去から続く根深い差別の象徴をなくしていこうという動きです。日本では「リベラル派が過激になって無理な要求をしている」と感じる人もいるかもしれませんが、その背景にある歴史に寄り添って考えなければ、一面的な議論になりがちです。

前嶋和弘氏 上智大教授。2022年からアメリカ学会会長。専門は米国政治。近著に「キャンセルカルチャー:アメリカ、貶め合う社会」(小学館)。

 ――キャンセルカルチャーという言葉は、どのように浸透していったのでしょうか。

 気をつけなければいけないの…

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この記事を書いた人
高島曜介
東京社会部|調査報道担当
専門・関心分野
事件、外交、安全保障
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    三牧聖子
    (同志社大学大学院准教授=米国政治外交)
    2022年10月21日21時6分 投稿
    【視点】

    「「キャンセルカルチャー」という言葉は、社会変革を求める切実な声をあざ笑う、侮蔑的な言葉として、多様性や公平性を求める動きを批判する側の間で広がっていった」ー『キャンセルカルチャー: アメリカ、貶めあう社会』(小学館)を上梓したばかりの前嶋

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