選挙中の凶弾、近代国家の基盤を脅かす 政治と暴力を遠ざけるには
安倍晋三元首相が銃撃されて死亡した事件を、どう考えるか。哲学、社会理論が専門の萱野稔人津田塾大学教授は、この事件が選挙活動のさなかで起きたことを重く見ています。萱野さんは近代国家の成り立ちに触れつつ、「政治と暴力」の歴史を語ります。
萱野稔人さん(津田塾大学教授)
――今回の事態をどのようにご覧になっていますか。
「報道されている内容から判断すると、銃撃した容疑者は、安倍元首相の政治信条に対してではなく、宗教団体がらみの個人的な恨みに基づくものと供述しているようで、政治テロというより私憤に基づく犯行に見えます」
――それでは政治的な問題ではないということでしょうか。
「そうではありません。選挙活動中に起きた犯行という点が問題の根深さを示しています。近代国家の成り立ちを考えると、選挙とは内戦の克服という意義を持っています。それまでは、国家や地域の支配権を奪取するには内戦に勝つことが前提でした。日本では戦国時代の諸戦だけではなく、戊辰戦争や西南戦争もそうした性格を持っています。こうした武力によらないで権力を獲得することを可能にしたのが選挙です。容疑者の動機はどうあれ、その選挙を舞台に行われた犯行は、近代国家の成立基盤すら否定しかねない行為なのです」
――昭和初期の血盟団事件の際、選挙の応援に向かった井上準之助元蔵相が銃弾に倒れ、その後、五・一五事件や二・二六事件につながっていきました。
「政治の手段を暴力から遠ざ…