経営者…だけど中間管理職? アイドルの矛盾を安部若菜はどう生きる

有料記事NMB48のレッツ・スタディー!

構成・阪本輝昭 山根久美子
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NMB48のレッツ・スタディー!経済編③「経営のための組織とは?」

 新年度から高校家庭科の授業で、資産形成の視点や基本的な金融商品の特徴などについて学ぶ取り組みが始まります。「NMB48のレッツ・スタディー!」経済編では、三田紀房さんの人気投資漫画「インベスターZ」に、NMBメンバーで現役大学生の安部若菜さん(20)が入り込み、金融や経済を通して社会を学ぶ問答を繰り広げます。(構成・阪本輝昭、山根久美子)

 安部若菜「こんにちは」

 財前孝史(道塾学園中学1年、「投資部」部員)「……」

 安部「人があいさつしたら返しなさい」

 財前「あ! ごめんなさい、ちょっと考えごとをしていて……。あれ、振り袖姿?」

 安部「成人式帰りです」

 神代圭介(道塾学園高校3年、「投資部」キャプテン)「おめでとう!」

 あべ・わかな 2001年、大阪府生まれ。18年、大阪・難波が拠点のアイドルグループNMB48に加入。大学で経済学を学ぶ2年生。将来の夢は「経営者になること」。

 安部「ありがとう」

 神代「20歳の抱負は何かある?」

 安部「ホスト……」

 財前「え!?」

 安部「失礼、独り言です。今、コントのネタを考えていたもので。ごめんなさい……」

 神代「コント?」

 安部「ピン芸人日本一を競う『R―1グランプリ』の予選に出ようと思っているんです。ホストに憧れるお父さんをたしなめる娘、という設定でやろうかと」

 財前「え、あの有名な賞レースに? プロ芸人さんたちにまじって、アイドルが?」

 安部「アイドルじゃない!」

 財前・神代「!」

 安部「『株式会社安部若菜』の経営者としての挑戦なんです。本番では、アイドルだともNMB48だとも名乗りません。一人の表現者・安部若菜として勝負したいから」

 財前「『言葉の力で勝負する』のが、『株式会社安部若菜』の社是……経営理念でしたね」

 安部「そう。R―1挑戦は、社是を具体的な事業計画に落とし込んだ結果です。ここで『言葉の力』を認めてもらって、活動の場を広げたいなと。もし早々に敗退しても、それはそれで『弊社』に足りないものが見える」

 神代「攻めの経営だな。フットワークも軽いし、安部さんらしい」

 安部「経営戦略については、『社長』である私の一存で決められますからね(笑)」

 神代「株式会社、特に上場企業はそうじゃない。内容によるけど、取締役会にかける必要がある」

 安部「またぁ!? 定款(ていかん)の変更などは株主総会の承認事項だと前回学んだけど……。経営者って案外不自由な立場だなあ」

中間管理職は経営者と同じ? 「チームM」をどう導くか

 神代「仮に経営戦略自体が優れたものだったとしても、会社組織は経営者一人で回るわけじゃないからね。取締役会の承認は第一歩だよ。その先、戦略を実行する各部門の責任者たちとよく意思疎通し、目標を共有しないと事業の成功自体がおぼつかない」

 安部「私、一人で決めて、一人で動きたい派なんですよね。人の手を借りながら何かを進めるっていうのが少し苦手で……」

 神代「いいのそれで? NMB48の『チームM』の副キャプテンに就いたそうだけど」

 財前「チームM?」

 安部「はい。チームっていうのは、会社でいうとまあ事業部みたいなものかな。NMB48は、『N』『M』『BⅡ』の3チームに分かれています。普段の劇場公演などは、このチーム単位で行います」

 財前「全員で50人ぐらいいるんだよね。確かに全員がいっぺんに舞台に上がるわけにはいかないもんね。だからチーム制なのか」

 安部「コロナ禍の影響もあって、ここ1年ほどは少人数制の6グループに再編されて活動していたんですけど、再び3チーム制に戻ることになったんです。先日、メンバーの再振り分けがあって、私は『M』の所属に」

 神代「なぜ? 少人数制のグループを続けた方が、一人ひとりのメンバーに光が当たりやすくなってよかったんじゃない?」

 安部「そういうメリットは確かにあったんですけど。一方、活動単位が少人数に『小分け』されたことで、NMB48全体としての意思疎通やコミュニケーションがとりづらくなった面もあったので」

 神代「大企業で起こりがちな現象だ」

 安部「そう。だから色々と課題もみえてきて。大人数のチーム制を復活させるのは、お互いに顔が見える、わいわい話し合える風通しのいい環境を再びつくるって意味合いもあると思います」

 財前「そのチームの一つで、安部さんが副キャプテンを……。いわば中間管理職ってわけですね」

 安部「私、『株式会社安部若菜』の経営者としてどうあるべきか、ばかりを考えてきたので……。要は、事業部の副部長をしろってことですよね。何をしたらいいんだろう」

 神代「経営者と同じだよ。それは……」

 安部「え?」

 神代「会社経営が株主との対話だとしたら、業務執行は社内との対話。経営者はいずれにせよ、言葉を通じて人を動かしていく仕事だ。周りの同僚を『言葉の力』で動かす力がないんなら、経営者にも向いてないよ」

 安部「……」

 神代「例えば、チームMをどうしたいの」

 安部「3チームにはそれぞれ伝統があって。『N』はNMB全体のフラッグシップ(旗艦)。パフォーマンスに優れた、いわば『パフォーマンス事業部』」

 財前「そんな性格づけがあるんだ」

 安部「ええと。『M』はお笑いやバラエティーに強い『バラエティー事業部』。末っ子チームの『BⅡ』は若手中心で、新鮮な感性とパフォーマンスで勝負する『フレッシュ事業部』かなあ。例えるなら」

 神代「なるほど、そんな伝統があると」

 安部「だから、Mの副キャプテンとしてめざす目標は……。伝統にのっとり、さらに特色を打ち出していく、ってところですかね」

 神代「……それだけ?」

 安部「なんか足りないですか?」

 神代「当たり前すぎるような……」

 安部「じゃあ……。『誰よりも信じ合える集団をつくる』っていうのはどうですか」

 財前「信じ合える?」

 安部「お笑いとかバラエティーって、『人を信じる』ことで成り立つ芸でもあると思うんです。この人ならボケを拾ってくれる、適切なツッコミを返してくれる。微妙な空気になっても、誰かが流れを変えてくれる。誰かは笑ってくれる。そういう信頼があるからこそ、思い切ったことができる」

 神代「そうか。人と人が信じ合うってことは、それ自体が経済の始まりでもあるしね」

 安部「どういう意味?」

 神代「物々交換の時代、見知らぬ人は全て疑いと不信の対象だった。お金の概念が出現したことで、人間同士が会ったその場で信用し合い、価値を交換できる状況が生まれた」

 安部「あ、『インベスターZ』第1巻で解説されていたやつね! 思い出した」

 神代「そうなると、コミュニケーションが活発になる。経済活動が活性化し、社会や文明が進歩する。『人を信じる』のが全ての経済の出発点であり、同時に社会発展のカギだったことを考えると、いい目標だと思う」

 安部「簡単じゃないですけどね」

 神代「米国の経営学者チェスター・バーナードは、組織がうまく機能するために必要な要素として、皆が共通の目的をもち、互いに貢献しあう意思があり、円滑なコミュニケーションがとれていること――を挙げている。信頼は、組織運営の上でとても大事だ」

 安部「……そうですね。私たちアイドルとファンの関係も同じ。お互いの信頼で成り立っているものだから。『信は力なり』というのは、アイドルグループとしてのNMB48が進むべき方向性にも合致していると思うの」

 神代「チームMの掲げる目標と活動が、他のチームにもいい影響を及ぼし、NMB48全体の強化にもつながるってことか」

 安部「それが事業部の役割かな。チームMキャプテンの原かれんちゃん自身が誰よりもNMB愛にあふれた努力家だし。……かれんちゃんと一緒に、いい事業部にしますよ!」

■ミヤウチ先生のかんたん経済講座 「経営者がなすべき三つのこと」

 追手門学院大の宮宇地俊岳・准教授が各回のカギとなる経済用語を解説します。

    ◇

 前回、株式会社の経営理念・事業目的を定めた定款(ていかん)の変更や、経営陣(取締役)の選・解任には、株主総会での承認が必要になるという話をしました。

 それでは、株主総会で選出され、経営を委ねられた経営陣は、どのようなことができるのでしょうか。

 例えば、野球の強豪校となることをめざす学校があったとします。

 この場合、学校としては、実…

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