佐々波幸子

文化部 | 歌壇担当
専門・関心分野短歌、子どもの本、投稿(生活者の声)

現在の仕事・担当

毎週日曜日の朝日歌壇を担当し、4人の選者(馬場あき子さん、佐佐木幸綱さん、高野公彦さん、永田和宏さん)による選歌会を運営しています。歌人や投稿者へのインタビューなど短歌にまつわる取材のほか、俵万智さん、永田和宏さん、木下龍也さんらを招き、短歌をテーマにしたイベントを開催。朝日新聞 短歌の公式X〈あさたん歌壇〉@asahi_tankaで発信しています。
時代や社会を貫く力をもった「うた」を生む作り手を顕彰する、大岡信賞の運営にも携わっています。

バックグラウンド

1991年に入社後、横浜や川崎、東京で働き、98年秋に1歳の息子と夫とともに静岡県富士市に赴任。00年に日米がん闘病者による富士登山に同行取材した際は、総勢450人と登頂を喜び合いました。
その後は東京を拠点に、絵本や児童書の担い手に話を伺ったり、フィリピンに強制送還された子どもたちを支援者と訪ねたり、子どもに関わる取材を重ねました。「声」編集次長、AERA副編集長を経て20年春から歌壇を担当しています。

仕事で大切にしていること

これまで読者の投稿欄「ひととき」や「声」、朝日歌壇に携わり、一人ひとりの肉声の力強さに心を揺さぶられてきました。過去の投稿欄を読むと、時代の空気をまとった歌や文章によって、当時の様子が鮮やかによみがえります。「歴史書に載らない生活者の声を記録し、時代を映す」という新聞投稿の役割をかみしめ、次の世代に引き継いでいきたいと思っています。

著作

論文・論考

  • 『生活者の声で時代刻む新聞歌壇 紙上のコミュニティーをウェブに広げ次世代に』(日本新聞協会「新聞研究」2023年6月号)

タイムライン

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「いやいやえん」俵万智さんも息子も助けられた 中川李枝子さんを悼む

 児童文学作家の中川李枝子さんが14日に亡くなりました。歌人の俵万智さんは、中川さんのデビュー作「いやいやえん」を子どもの頃に愛読。さらに、大人になってから子育てを通して再び出会い、助けられたといいます。お話を伺いました。  息子が4歳の時、幼稚園に行きたくない、と言い出したことがありました。年少児の時は「皆勤賞」だったので、親としては病気でもないのに休むのはもったいない、という気持ちでしたが、ここで無理強いしてもしょうがない、とふたりで気晴らしに近所の図書館に行きました。 ■俵さんが感じた、中川李枝子さんの物語の力  そこで懐かしい本が目にとまり、一緒に読んだのが「いやいやえん」です。  息子はちょうど主人公のしげると同い年で、「はなくそを、なめました」「うわばきを手にはいて、かおをなでました」「おべんとうのとき、わざと、にんじんをおとしました」といったしげるの様子に、大喜び。  物語のなかに、しげるという自分の仲間を見つけ、しげると一緒に「いやいやえん」に行き、帰ってきたような気持ちになったようです。  「いやいやえん」は、子どもたちが好き勝手なことをしても先生たちは叱らない園。ここで一日過ごしたしげるは、自分が通っている保育園が懐かしくなります。  このままずっと行かなかったら……という不安もありましたが、息子もまたしげると同じように、翌日は元気に幼稚園に行きました。  きっと、中川さんはそういう子どもをいっぱいご存じだったのだと思います。物語の力で、息子を楽にしてくれた。親の私もまた、この物語に助けられました。

「いやいやえん」俵万智さんも息子も助けられた 中川李枝子さんを悼む

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まだ文字の書けないきみは 歌人・木下龍也があなたのために詠んだ歌

 参加者から募った「お題」に気鋭の歌人は短歌でどう応えたか。「木下龍也さん×記者サロン あなたのために詠む短歌ONLINE」では、それぞれの「お題」の依頼者と木下さんが画面越しに直接言葉を交わし、お題にどんな思いを込めたか、それにどう向き合って歌を作り上げたかを語り合いました。  依頼者からのお題に応じた100首を収めた「あなたのための短歌集」がロングセラーとなっている木下さんは2回目の記者サロン。好評を博した前回4月は、この歌集の内容を学習させたAI(人工知能)も同じお題で短歌を作り、木下さんの歌とともに鑑賞した。この際に来場したお題の依頼者と木下さんとの対話が他の参加者の共感を呼んだことから、今回は4人の依頼者と木下さんをオンラインで結び、語り合う場を設けた。  一つ目のお題は子育て中の会社員・山浦のぞみさんからの「3歳の息子はとても可愛いのですが、注意したことが気に入らないと『お母さんはいらない、捨てる』など憎まれ口をたたきます。子どもの言うこととはいえ、傷つきます。励ましの短歌を」。木下さんはこの歌で応えた。  〈まだ文字の書けないきみはごめんねを寝顔で伝えようとしている〉  「子育ての経験もないので難しいお題だった」と言う木下さんに、山浦さんは「思春期を含めてこれからの育児でずっと大切にお守りのようにしていきたい歌。実は親も『言い過ぎちゃった。ごめんね』と優しい気持ちになれるタイミングが、子どもの寝顔を見ている時。そういうところも酌んでくださった歌かなと感じました」と喜んだ。木下さんも「人の寝顔を見るのがすごく好きで、対話は出来ないけれど優しい気持ちになる」と歌が生まれるきっかけとなった思いを伝えた。  山浦さんが自身も歌を詠むと打ち明けると、木下さんは「日々成長する姿など今だから作れる短歌はたくさんある。『お母さんはこう考えてくれてたんだ』と写真よりもっと胸に届くものになると思うので、ぜひ残してください」と励ました。  歌が出来上がるまでの過程について、木下さんは「お題を何度も読みながら、自分ならどういう言葉がほしいか考える」と説明。パッと歌が出来ることはなく「前に使った手は使えない。どんどん難易度が上がっている」と話した。  社会人3年目の女性からのお題は「20代後半になり、恋人との将来、仕事のステップアップ、離れて暮らす実家の母、将来のことを考えると胸が押しつぶされます。これからのことを前向きに考えられるような歌を」。お題に自身の不安を重ね合わせたという木下さんは、次の歌を詠んだ。  〈「見えるなら先回りして斬るのだ」と心の武士がささやいている〉  受け取った女性は「読んだ瞬間に心がほわほわあったかい気持ちに。芯のある強さを感じて、今までずっと丸まってた気持ちがシャキッとしました。まさに心の中に小さな武士が宿ったような、心強い気持ちになりました」と声を弾ませた。  ほかにも「両親が亡くなった実家をたたむつらさ」「遠からず訪れる老犬との別れ」をテーマにしたお題への歌を披露し、依頼者と語り合った。切実な思いを込めたお題に応える木下さんの歌に、依頼者が感極まる場面も。老犬を取り上げたお題では、歌に詠まれた柴犬も画面に登場した。  事前に寄せられた質問に答えるなかで、木下さんは創作の秘訣(ひけつ)も明かした。  「情景が目に浮かぶ短歌が多く、言葉の選び方のセンスも素敵。日頃心がけていることはありますか」という問いには「余白の多い詩型なので、読む人の想像力に頼る部分が大きい。見せたい情景をなるべく明確に言葉に置き換え、読者の頭の中で立ち上がるように、あらかじめ色彩の濃度を上げて書いている」。風景や映像など色々な物を見ておくことを心がけているが、短歌になりやすいのは写真に収めていない風景だという。「記憶は時間が経つにつれて薄れていく。そこに詩が生まれる余地があるんじゃないか」と語った。 ■参加者の声「詩の本質見た」「心の奥底にしみ込む優しさ」 ◆東京都・60代女性 木下さんの誠実でうそのない対応も素晴らしかったですが、お題を投げた方々の正直で切実な姿勢に、詩の本質も見た気がして心打たれました。 ◆富山県・50代女性 両親を亡くされて、家も処分しなければならない2人目の(依頼者の)方の短歌がこれからの自分にも重なり、涙が出ました。木下さんの短歌は難しい言葉を使っていないのに、心の奥底にまでしみ込んでくるような優しさを感じます。 ◆群馬県・50代女性 たった31音で心を癒やし、励まし、寄り添う短歌の力を実感しました。半年前に愛犬を亡くし、日々喪失感と後悔で過ごしてきました。愛情を感じる温かな短歌を繰り返し読み、涙が止まりませんでした。 ◆東京都・50代女性 歌の背景をここまでリアルにじっくりと聞く機会はなかなかないので、非常に心に残る内容でした。お題を提供した方々と木下さんの心のやり取りが、いっそう一首の内容を深めていたように感じました。 ◆埼玉県・50代男性 木下さんの誠実な人柄と類いまれなセンスが短歌に反映されていて満足のいく内容でした。 ◆奈良県・30代女性 一般の方が出演される記者サロンは初めてで、とても新鮮で面白かった。 ◆静岡県・40代女性 木下さんのお題への向き合い方、何度も読み返し、第三者である自分が「あなた」にどんなことを伝えられるかをすごく考えているところに共感しました。 ◆東京都・50代男性 歌人を生業にされている方の、日々呻吟(しんぎん)して一首ひねり出すまでの過程がよく分かった。 ◆埼玉県・60代女性 皆さんのお題と短歌が自分のこととして入ってきました。自分の中にも年齢と共に大きくなった(であろう)武士がいて、今より少し先を斬り開いてくれている姿、思い描いています。 ■            ◇  きのした・たつや 歌人。1988年、山口県生まれ。2013年に第1歌集「つむじ風、ここにあります」を出版。「あなたのための短歌集」は13刷4万6千部に。  さざなみ・ゆきこ 文化部記者。91年入社。20年春から短歌投稿欄「朝日歌壇」を担当。歌人の取材を続けている。

まだ文字の書けないきみは 歌人・木下龍也があなたのために詠んだ歌

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短歌・俳句を投稿しませんか 朝日歌壇に続き俳壇もネットから可能に

 郵便料金の値上げなどを受け、歌壇に続いて俳壇への投稿も10月1日からインターネットからもできるようになりました。  最初に朝日IDの登録(無料)が必要です。俳壇も歌壇も、ネット投稿は1回の投稿につき1作品、1週間に2作品(投稿2回)以内とします。1週間に3作品以上送ると、すべての投稿が無効になってしまいますので、お気を付けください。投稿や詳しい規定は、短歌と俳句それぞれの投稿フォームでご覧下さい。  朝日俳壇、朝日歌壇の特徴は、4人の選者が投稿規定を満たした全ての投稿に目を通す共選方式をとっていることです。俳壇は週に5千~6千通、歌壇は週に2千~2500通もの投稿があり、時間をかけて選んでいます。このためネット投稿については上限を設けました。ご理解いただければ幸いです。  4月に始めた歌壇は現在、ネットからの投稿が3割近くを占めるようになりました。オランダ在住の宮沢洋子さんは、移住後にやめていた投稿を再開。9月に3首入選しています。「はがき1枚につき切手が200円以上する上、日本に届くまで2週間ほどかかるのでやめていました。丁寧に字を書くことが精神統一にもなり、はがきも好きなので日本に戻ったら手書きでも投稿したいです」と伝えてくれました。  9月15日付の歌壇俳壇面で「皮むきの労をねぎらひくれし母栗の甘煮を彼岸に供ふ」という一首が初入選した中澤理恵子さんは、投稿自体が初挑戦。「スマホからスムーズに送ることが出来ました。はがきを買いに行ったり、ポストに出しに行ったりする手間が省けてありがたい」と話していました。  はがきの投稿も従来通り受け付けます。投稿規定(https://support.asahi.com/hc/ja/articles/9210775551767)を改めてご確認下さい。作品の問い合わせをすることがあるので、電話番号もお忘れなく。ご投稿をお待ちしています。

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