村上友里

国際報道部
専門・関心分野難民移民、人権、司法

現在の仕事・担当

英国の大学院に留学しています。特に関心のある分野は難民や移民、司法制度です。

バックグラウンド

1991年生まれ。2015年に入社し、横浜→岡山→名古屋→東京と異動しました。初任地の横浜総局で司法取材を担当して以降、社会の矛盾が見えてくる裁判に関心を持ち、21~23年は東京社会部などで裁判や司法制度を取材しました。死刑制度や家族のかたち、外国人の権利に関心があります。
もともと記者を志したのは大学時代に研究していた難民問題を取材したい、という思いでした。24年に国際報道部に異動し、24年夏から英国の大学院で難民・移民について学んでいます。

仕事で大切にしていること

  • 埋もれた声を掘り起こす
  • 正しさを主張するのではなく、問題を知り、考えるきっかけとなるような記事を意識する

タイムライン

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イスラエルとパレスチナの女性団体「架け橋築く」 戦闘後も続く模索

 イスラエルとパレスチナの女性たちが連携し、紛争終結を求める声を上げ続けている。昨年10月にパレスチナ自治区ガザでイスラエル軍とイスラム組織ハマスとの戦闘が始まって以降、パレスチナとイスラエルの行き来が制限され、ともに平和集会に参加するなどの連携は困難になった。それでも互いに対話を模索し続ける理由とは。  イスラエルの市民団体「ウィメン・ウェイジ・ピース」(WWP)は2014年、イスラエルがガザに地上侵攻し、ハマスとの間で約50日間続いた戦闘後に、イスラエルの女性たちが設立した。「紛争解決に向けて、女性の声が届いていない」と考えたからだ。  紛争地では女性や子どもが被害を受ける可能性が高いと指摘し、平和活動などの分野でジェンダーの視点をとりいれるよう求めた00年の国連安全保障理事会の決議に沿って活動している。  メンバーのナーマ・バラク・ウォルフマンさん(57)は「(イスラエルとパレスチナの)和平交渉に女性が関与することによって、より実行可能で持続的な解決策が生まれると思う」と話す。 ■ハマスの攻撃で命を落としたメンバー  WWPは今回の戦闘前からパレスチナの市民団体「ウィメン・オブ・ザ・サン」(WOS)とも連携をしてきた。  「イスラエルとの紛争の中で、多くの子どもや若者が犠牲になっているのに、母親である女性たちの多くは声をあげられない。女性が政治に参加し、もっと自分の意見を表明できるようにしたい」。WOS代表リーム・ハジャーラさん(42)は、22年に団体を設立した時の思いをこう語った。パレスチナでは家庭や政治の世界で男性に決定権があることが多いという。  WOSはヨルダン川西岸ベツレヘムに拠点があり、西岸各地やガザなどから約3千人が参加し、女性の経済的、社会的な自立を支援。長く停滞したままのイスラエルとの和平交渉でも、女性の声を反映させるようパレスチナ自治政府に働きかけてきた。イスラエルから通行許可を得て、WWPとエルサレムなどでともに集会を開き、参加してきた。  昨年10月のガザでの戦闘開始以降、パレスチナ側の死者は4万人を超え、WOSのメンバー37人も命を落とした。ガザの死者の大半は女性や子どもだ。西岸でもイスラエル軍やユダヤ人入植者による暴力が激化し、死者は600人超に上る。WOSはガザや西岸で女性や子どもへの心理的ケアを緊急で行っている。  一方、WWPもガザの戦闘の発端となった昨年10月のハマスの越境攻撃によって、イスラエル南部に住んでいたメンバー数人が殺害された。メンバーたちは深い悲しみや怒りに直面したが、何度も話し合い、「報復は解決策にはならない」と考えるようになったという。 ■イスラエルへの行き来が不可能に  両団体の連携が困難になった要因は、ほかにもある。昨年10月のガザでの戦闘開始以降、パレスチナ人がイスラエル領内に入るのはほとんどできなくなった。大規模な平和集会などをともに開くことは難しくなったが、両団体はオンラインなどで連絡をとり続けている。  今春からは平和や他者理解などについて学び、リーダーを育成するプログラムをそれぞれの場所で始めた。イスラエルとパレスチナの女性それぞれ約40人が参加し、今後、オンラインなどで双方の参加者同士が一緒にプログラムを受けられる機会を設ける予定だ。  ハジャーラさんは「子どもや大切な人を殺されたくないという思いはイスラエル人も同じ。簡単ではないが、対立より対話を求めたい」。バラク・ウォルフマンさんも「イスラエルの社会や指導者たちに、パレスチナ側にも協力できる女性たちがいると示すことはとても大切だ」と話し、「この場所でどのようにして一緒に暮らしていけるのか、考えていかなければいけない。まずは女性同士で架け橋を築きたい」と強調した。

イスラエルとパレスチナの女性団体「架け橋築く」 戦闘後も続く模索

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西岸で取材中に奪われた自由 許せなかったイスラエル兵の言葉とは

 強い日差しが照りつける中、イスラエル兵に囲まれて数時間がたった。兵士が肩から下げた銃が目に入り、悪い予感が頭から離れない。自分が置かれた状況が現実と信じられず、何度も空をあおいだ。  7月17日午前11時半ごろ、パレスチナ自治区ヨルダン川西岸にある入植地オフラのバス停でイスラエル軍の兵士に車をとめられた。パレスチナ人の男性取材スタッフの車に乗り、イスラエルの入植地近くに住むパレスチナ人らの取材に向かう道中だった。  銃を持った迷彩服姿の若いイスラエル兵数人がヘブライ語で話しかけてきた。スタッフによると、兵士たちは「軍の施設を撮影した」と言っているという。  カメラやパスポート、スマートフォン、プレスカードを一方的に取り上げられ、車の外に出された。兵士から「なぜ許可なく軍の施設を撮影したのか」と強い調子で質問された。  入植地の写真しか撮影していないと伝えたが、「うそつきだ。逮捕される」と言われた。 ■スタッフを「ハマス」と呼んだ兵士  昨年10月以降、イスラエルはパレスチナ自治区ガザで攻撃を続け、パレスチナ側の死者は4万人を超えた。もう一つのパレスチナである西岸でも暴力行為が急増し、イスラエル軍や入植者に殺害されたパレスチナ人は580人を超える。  イスラエルは半世紀以上、占領下に置く西岸でユダヤ人の入植活動を進め、イスラエルの平和団体「ピースナウ」によると、入植者は46万人超まで増えた。国際司法裁判所(ICJ)は7月、占領政策を国際法違反と判断した。  私は前日に日本からイスラエルに到着し、こうした西岸の現状を取材するつもりだった。兵士が銃を構えるたび、恐怖心が募った。スタッフに話しかけようとすると、「しゃべるな。日陰に座らせているのに、これ以上しゃべると日なたに座らせるぞ」と兵士から怒号がとんだ。  午後3時ごろ、入植地の中にあるイスラエルの治安施設に車で連れていかれた。受付の待合ベンチに座らされると、30代くらいの女性兵士がこれまでと違った雰囲気で話しかけてきた。  「あなたは被害者。ハマスにだまされて軍事施設を撮影した」。スタッフをにらみ、一方的に「ハマス」と呼んだ。さらに、スマートフォンで複数の写真を見せてきた。  昨年10月のイスラム組織ハマスの奇襲攻撃で捕虜になったイスラエル軍の女性兵士たちの写真だった。右のまぶたが赤黒くはれた女性や、頭に巻かれた包帯に血がにじむ女性が写っていた。このとき、イスラエル人約1200人が亡くなり、ガザでの戦闘の発端となった。  「ハマスの攻撃の時、あなたは笑っていたんでしょう。あなたがこの国を出て行くときは今だ」。女性兵士はスタッフにこう言った。  兵士は私をイスラエルから強制出国させ、スタッフを逮捕すると説明した。午後5時前、再び車に乗せられ、もとのバス停に戻った。  所持品を返却され、兵士から握手を求められた。「次にイスラエルに来たときはテルアビブのビーチに行って、一緒にパーティーをしよう」。そして、スタッフの方に視線を向けながら、こう続けた。「今日彼から教わったこと、あなたが見たことは全て忘れなさい」  カメラを確認したが、写真を削除された形跡はなかった。何の説明もなかったが、解放されたようだった。 ■イスラエル当局の説明は  スタッフは長年、この仕事をしてきたが、このようなことはなかったという。「昨年10月以降、イスラエルの人々はより過激になり、軍もその雰囲気を反映しているのではないか」と話した。  それでも、今回の出来事は常にパレスチナ人に起こりうることだと険しい表情で語った。「殴られたり、時には殺されたり、もっと悪い状況になることもある。これがパレスチナ人として生きることの代償だ」  今回の出来事についてイスラエル当局に説明を求めたところ、イスラエル軍の報道部は「記者が情報セキュリティーに違反した恐れがあったため調査した。調査の上、その恐れがないと判断し解放した」と回答。外部との連絡を絶つなど拘束の方法が正当だったかどうかは、明確に答えなかった。  イスラエル政府関係者は取材に「不快な思いをしたかもしれないが、無事解放されたから良いではないか。戦争中で緊張が高まっていることもある」と述べた。  スタッフに差別的な言葉を投げかけたイスラエル兵が許せなかった。同時に銃を手にしたイスラエル兵たちには圧倒的な力があり、抵抗できなかった悔しさや無力感もあった。占領する側とされる側の非対称な関係性について、一般のイスラエル人はどう考えているのだろうか。  商都テルアビブのビーチでは、地元の人や観光客が海水浴を楽しんでいた。ビーチ沿いを夫と散歩していたレベッカ・パンツェルさん(70)は元高校教師で、教え子がハマスの人質になっているという。「昨年10月まではガザ市民に同情していたが、今はハマスというテロリストに協力していると思うようになった」  両親はポーランド生まれで、ナチスドイツに迫害されて逃れてきた。「パレスチナ人は私たちが嫌いで、イスラエルから出て行けと言っている。私たちが出て行くまで憎しみは終わらない。本当に恐ろしい」  テルアビブで行われた人質の解放を求めるデモに参加したヨアブ・ベルリンさん(67)も、父親がナチスドイツから逃れてきたといい、昨年10月のハマスの攻撃について「第2のホロコースト(ユダヤ人大虐殺)だ」と批判した。 ■顔が見えなくなった双方の市民  欧州での迫害から逃れたユダヤ人は1948年、パレスチナの地に、イスラエルを建国。67年の第3次中東戦争で西岸やガザ、東エルサレムを占領した。さらに、イスラエルは2002年から「テロ対策」として、同国と西岸を隔てる分離壁を建設した。双方の市民は分断され、互いに見えない存在になった。  私はイスラエルに滞在中、作家の村上春樹氏が09年にイスラエルの文学賞「エルサレム賞」を受賞した時のスピーチ「壁と卵」をたびたび思い起こした。イスラエル人に自己紹介をすると、よく「ハルキ・ムラカミの親戚か」と前のめりに聞かれ、村上氏の人気を実感したのだ。  「高くそびえる壁と、壁にぶつかると壊れてしまう卵があるとすると、私はいつでも卵の側に立つ。たとえどんなに壁が正しく、どんなに卵が間違っていたとしても」  村上氏のスピーチは、システム(体制)や武器を「壁」、武器を持たず犠牲になった市民を「卵」と表現し、イスラエルを批判していた。08年から09年にかけてのガザ侵攻を念頭に「1千人超の人々が犠牲になった」と述べたが、現在のガザでは桁違いの被害が出ている。  イスラエル人たちは村上氏の文学が好きだと言うが、現在も壊され続けている卵の存在をどう考えているのだろうか。  取材をしたイスラエル人の多くは、ますます顔を見ることがなくなったパレスチナ人を「テロリスト」と呼んでおびえているように見えた。そして、昨年10月のハマスの攻撃が人々の恐怖心を決定的にし、ガザ市民の犠牲に思いをはせにくくなっているのではないかと感じた。  米ピュー・リサーチ・センターが3~4月に実施した調査によると、イスラエルと将来の独立したパレスチナ国家との共存が可能だと考えるイスラエルのユダヤ人は前年の32%から19%に減少し、この質問を始めた13年以来最低となった。  暗い気持ちになりながらも、強力な武器や権限をもつ側の意向で簡単に自由を奪われてしまう現実を目の当たりにした私は、「壁にぶつかり」、抵抗を続ける人々の声をもっと伝えていかなければならないと強く思った。  むらかみ・ゆり 1991年生まれ。2015年に入社し、東京社会部などを経て24年から国際報道部。男女ともに兵役義務があるイスラエルでは、銃を持ったまま街中を歩いたり、自転車に乗ったりしている兵士をよく見かけた。銃を見るたびドキッとしたが、街の人々にとってはそれが日常風景のようだった。

西岸で取材中に奪われた自由 許せなかったイスラエル兵の言葉とは

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米軍、中東に戦闘機や軍艦を追加派遣 「地域紛争拡大の緩和のため」

 米国防総省は2日、イスラム組織ハマス最高幹部のハニヤ政治局長の殺害を受けて緊張が高まる中東情勢に対応するため、戦闘機部隊やミサイル防衛能力を持つ巡洋艦や駆逐艦を追加派遣すると発表した。  同省によると、オースティン国防長官は中東に引き続き空母を配備し続けるため、帰還が予定されているセオドア・ルーズベルト空母打撃群に代わり、エイブラハム・リンカーン空母打撃群の中東派遣も命じた。  イランやハマスはハニヤ氏の殺害はイスラエルによるものだとして報復を宣言している。国防総省は今回の対応を「イランやその代理勢力による地域的な紛争拡大を緩和するための措置だ」と説明した。  米紙ニューヨーク・タイムズによると、4月にイランが在シリアの大使館への空爆の報復措置としてイスラエルをドローンとミサイルで攻撃した際には、イランから事前に米国に連絡があったために米軍が追加配備でき、迎撃に成功した。しかし今回は攻撃に備える十分な時間があるかどうかは不明だとしている。国防総省は中東地域で米軍が攻撃される可能性にも備えているという。 ■イラン当局が20人以上を拘束との報道  オースティン氏は2日、イスラエルのガラント国防相と電話会談し、米軍の防衛態勢を変更してイスラエルの防衛を支援すると伝えていた。「さらなるエスカレーション(段階的拡大)は避けられないものではなく、緊張緩和はこの地域の全ての国に利益をもたらす」とも述べたという。一方、ガラント氏は会談で「イスラエルと米国の安全保障協力は地域の安全と安定にとって重要だ」と強調した。  また、同紙は複数のイラン当局者の話として、イラン当局がハニヤ氏の殺害をめぐる「セキュリティー違反」があったと主張し、情報当局の高官や軍関係者、ハニヤ氏の滞在先の従業員ら20人以上を拘束したと報じた。

米軍、中東に戦闘機や軍艦を追加派遣 「地域紛争拡大の緩和のため」
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