望月洋嗣

アメリカ総局長
専門・関心分野国際政治、紛争

現在の仕事や担当

世界中が注目するアメリカ大統領選の動きを、アメリカ総局管内の記者たちとともに、追いかけています。11月の選挙当日に向けて、民主党のバイデン大統領と共和党のトランプ前大統領のそれぞれの戦略とともに、関係する多くの国がどのように反応するかにも注目しています。

バックグランド

1993年に入社し、千葉を振り出しに、岩手、埼玉の各県に勤務。外報部、大阪本社の社会部を経て2004年からナイロビ支局長としてサハラ砂漠以南の48カ国を担当しました。ワシントンにはオバマ政権当時の2009~13年にも勤務。アフガニスタンでの従軍取材が印象に残っています。GLOBE編集長を経て、21年から現職です。1969年、神奈川県箱根町生まれ。東京外国語大学英米語学科卒。大学時代はアメリカの文化に強い関心を持って勉強していました。

仕事で大切にしていること

世界のどこにいても、そこが中心だと考え、そこから見える世界を読者のみなさんにうまく伝えらることを心がけています。できるだけ、多くの人に会って話を聞き、その声を正確に伝えることを目指しています。仕事はなるべく楽しくをモットーにしていますが、なかなか思い通りにはいきません。

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トランプ氏「健在」の意味は ヤン=ヴェルナー・ミュラー氏に聞く

 11月5日に迫る米大統領選で、前回選挙での敗北を受け入れず、刑事裁判で罪にも問われる共和党のトランプ前大統領が、民主党のハリス副大統領と激しく競っている。トランプ氏の健在ぶりは何を示唆するのか。ポピュリズム政治に詳しい米プリンストン大学のヤン=ヴェルナー・ミュラー教授に尋ねた。  ――トランプ氏への支持がいまなお高いことを、多くの日本人が不思議に感じています。  「多くの米国人も同様に困惑していますが、二つの点を強調したい。まず、トランプ氏は共和党を『個人崇拝の政党』のように変容させました。多くの親族が党運営に関わっていて、家族経営の政党ともいえる。その結果、共和党は人材を失い、ある意味で空洞化しました。民主党の組織構造が完璧だとは思わないが、共和党の場合は極端です」  「これは、他国の右派ポピュリスト政党にもよくみられるパターンです。インドのモディ首相、トルコのエルドアン大統領、ハンガリーのオルバン首相が、いずれも政治学でいう『個人政党』をいわば専制的な手法で率いているのは、偶然ではありません。党内に異論や対抗勢力が存在しない点も共通しています」 ■なびいたエリートたち  「2点目は、米国の保守派のエリート政治家らの一部がトランプ氏を許容すると決断したことです。トランプ氏が初めて大統領選に出た2016年には、彼に反発する人が党内にも大勢いました。トランプ氏に追い落とされた人がいた一方、一部はトランプ氏の影響力を目の当たりにし、時とともにトランプ氏になびいたのです」  「一部の経済エリートにも同じことが言えます。シリコンバレーのIT産業の成功者などです」  ――起業家のイーロン・マスク氏や米決済大手ペイパル共同創業者で投資家のピーター・ティール氏らでしょうか。  「その通り。彼ら以外にも大勢います。単刀直入に言えば、こうした経済エリートは、バイデン政権による規制強化を嫌う一方、トランプ氏は富裕層への減税や、IT産業への規制緩和を約束するとみています。トランプ氏が1期目(17~21年)にエリートが求めることをした、と捉えているのです」  「庶民に人気のある右派ポピュリストの政治家を、自分たちに有利だと考えたエリート層が支える、という構図は米国に限ったことではありません」  ――トランプ氏は大統領選を過去2回戦い、訴えに新味は感じられませんが、なぜ支持が衰えないのでしょうか。  「トランプ氏には細かな政策はありません。あるのは『計画の概念のみ』とも言われています。しかし、イメージをつくることや、複雑な政策上の問題を非常に力強いシンボルに凝縮することでは優れています。不法移民対策で国境に『壁をつくれ(Build the wall)』といったのはその一例です」 ■「普通」押し返すハリス陣営の戦略は奏功  ――ハリス氏の陣営の選挙戦をどのように見ていますか。  「ハリス氏は、自分たちがどんな存在なのかについて、効果のある象徴的な言葉をみつけられていないようです。たとえば、1990年代にビル・クリントン氏は『21世紀への架け橋をつくる』と訴えました。振り返るとあまり意味のない言葉ですが、『新時代に向かう』との雰囲気を醸成しました」  「ハリス陣営がトランプ氏や副大統領候補のバンス氏を『奇妙だ』と指摘したのは効果的でした。トランプ氏らは、『我々こそが真の米国のハートランド(中西部)を代表する普通の国民だ』と自分たちの正当性を強調しています。これに対し『いやいや、あなた方はかなり変わっている。自分たちだけが普通と言うのはおかしい』と異議を唱えるのは非常に有効です」  「『普通の国』を掲げて過激な主張を覆い隠すのは右派ポピュリストの常道で、ドイツやオーストリアでも見られます。押し返すことは大切なことです」 ■トランプ陣営は選挙に似せた「クーデター」の試み  ――大統領選ではハリス氏が「(過去に)後戻りしない(Never going back)」、トランプ氏が「ハリス氏が大統領になればこの国は破壊される」などと言い合い、重要な政策の議論は深まっていません。  「多くの有権者が、この選挙は民主主義の将来を決定づけるとみているようです。2022年の中間選挙でバイデン大統領が民主主義を前面に出した際、『抽象的で理解しにくい』といった指摘がありましたが、私は違いを生んだと思います。有権者に『何が危機に瀕(ひん)しているか』を訴えるのは悪いことではありません」  「こうした状況をふまえ、トランプ氏も一時は言動を抑制的にして『行儀がよくなった』と言われていたのに、いまは、多くの人が好まない人種差別的な話をかまわずにしています。彼の言動をだれも制御できないからというだけでなく、私は、トランプ氏の陣営が開票結果にかかわらず『勝利』を主張する戦略をすでに持っているからではないか、とみています。陰謀論者のように聞こえるかもしれませんが、そう考えないのは甘すぎます」  「とても極端な言い方をすれば、ハリス陣営の活動がいわば普通の選挙運動だとすると、トランプ陣営は選挙運動に似せたクーデターの試みをしているとも言えます。私はこの見解が正しく、すべての右派ポピュリストがクーデターを画策するなどと、主張したいわけではありません。しかし、刑事、民事で多くの裁判を抱えるトランプ氏が、敗北しても『勝利』を宣言する計画を持たないと考えるのは甘いと思います」 ■いかに生き延びるかが最大の目標に  ――前回の落選後にトランプ支持者が連邦議会議事堂を襲撃したような事態が再び起こるのですか。  「起こらないとは、とても考えにくい。トランプ氏は主要な刑事裁判の開始を遅らせることに成功し、大統領になれば裁判の多くを取り除きうる状況をつくった。限界まで突き進む動機が十分にあるのです」  「右派ポピュリスト政党が一個人に支配されることがなぜ危険かの理由もここにあります。強く、カリスマ的なリーダーは悪くありませんが、通常の政党なら選挙に負けても次があると考えられますが、一個人に支配された政党では、その個人がいかに生き延びるかという計算が優先されます。一個人に支配された政党が、より専制主義的になるのは、偶然ではありません」  ――ロシアやトルコのように、現職大統領が選挙に勝ち続けるようなことが米国でも起きるのですか。  「それは想像しがたい。ロシアやトルコは高度に中央集権化された国ですが、米国は分権化された連邦制です。すべての権力を自分に集中させようとする人物が登場したとき、中央政府に州政府が異議を唱えるといった連邦制のチェック・アンド・バランスが働き、食い止めるハードルになるのです」 ■トランプ氏引退でも残る影響  ――「トランプ党」化した共和党はどうなりますか。  「普通の中道右派の政党に戻る道をいかに見いだすかは、次世代の人々にかかっています。しかし、たとえトランプ氏が引退しても、『MAGA(Make America Great Again=米国を再び偉大に)』と呼ばれる政治運動はなくならない。より穏健な政治家が共和党を率いたとしても、MAGA派の支持なしには選挙に勝てない、という構造的な課題は続きます」  「過去10年から学ぶべき教訓は、トランプ氏は米国の政治状況を示す『症状』であり、この間に起きた政治的な動きの『原因』ではない、ということです。政敵の正当性まで否定するトランプ氏のような右派ポピュリズム的な動きは、1990年代に始まっていました。その中心人物は民主党を『裏切り者』と呼んだ共和党のギングリッチ元下院議長だと考えています」  「いったんこうしたやり方が始まると、その方向を覆すのは容易ではない。支持する人々の政治的なアイデンティティーも固まってくるのです」  「こうした現象は米国以外でも見られます。最初は、既存の政治システムに抗議し、大きな衝撃を与えようと極右ポピュリスト政党に投票するのですが、回を重ねるうちに当たり前になる。政治的なアイデンティティーも固まり、『これが自分の党だ』『誇りに思う』などと言うようになるのです」  ――分断や分極について、当然のものと考えるべきだと主張されています。分断が拡大するいまの米国政治をどう見ていますか。  「分断や対立は民主主義のそもそもの特性です。米国では識者も市民も『団結しよう』とよく言いますが、民主主義は全員の団結を目的とした制度ではない。違った意見を持ち、異なる考えや利益のために争うことはまったく正当で、分断自体は問題ではありません」  「問題は相手方を非正当化することです。人々がアイデンティティーを固定化するだけでなく、対立する相手方が選挙に勝てば、民主主義が終わるとか、国が破壊されると主張することが問題なのです」  「分極化というと、民主、共和両党が過激化している、との印象を与えますが、本当に過激化し、反民主的になっているのは共和党です。前回大統領選の結果を否定する共和党右派は、民主党のリベラル左派とは決定的に違います。分極化という言葉は中立的で社会科学的に聞こえますが、米国の現実を部分的に捉えているだけです」  ――こうした政治状況を正すためにできることは。  「簡単な方法はありませんが、二つを強調したい。一つは、すでに述べた保守派エリート層の問題です。新しい話ではありませんが、国が民主主義になるか、専制主義になるかは、影響力のある特定のエリート層の動向が左右します。自己の利益のために、右派ポピュリストと結託すべきではありません」  「二つめは少数派を重視しすぎる政治システムの問題です。ポピュリズムは『多数派による圧政』と捉えられがちですが、米国では多数派を説得せずとも選挙の『勝者』になれます」 ■構造的問題抱える選挙制度  ――大統領選は得票総数ではなく、州ごとに割り当てられた『選挙人』をどちらが多く獲得したかで決まりますが、ほとんどの州では、一票でも多く取った候補が選挙人を総取りする仕組みですね。  「実際、トランプ氏は大統領選の得票総数で相手候補に勝ったことはなく、多数派を代表したことはありません。『米国は世界で最も偉大な民主主義国家だが、多数派でなくても大統領になれる』と説明したら、米国以外の国々の人々はとても不思議に感じるはずです」  「これは、より深い構造的な問題ですが、対応し、解決策を模索する人がいないわけではない。本当の問題は一方の政党(共和党)がこれを解決に向かわせないため、あらゆる手を使っていることなのです」      ◇  Jan-Werner Müller 1970年、ドイツ生まれ。米プリンストン大学教授。英オックスフォード大で博士号取得。著書に「ポピュリズムとは何か」(岩波書店)、「民主主義のルールと精神」(みすず書房)など。

3日前
トランプ氏「健在」の意味は ヤン=ヴェルナー・ミュラー氏に聞く

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にじむ「核使用」への危機感 オバマ氏から被団協への祝辞を読み解く

 原爆を投下した当事国である米国のオバマ元大統領(63)とバイデン大統領(81)が、日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)へのノーベル平和賞授与をそろって祝福した。2人の言葉をどう捉えればいいのか。日本被団協が核兵器を使うことに対する「タブー」の形成に貢献したと評価する一方、自国が核兵器を使ったことへの責任には触れない点が特徴だ。  日本被団協への授賞を受けてバイデン氏は13日に声明を出し、オバマ氏は14日、Xに投稿した。かつて正副大統領として「核兵器のない世界」を世界に訴えた2人の言葉からうかがえるのは、核兵器が再び使われることへの強い危機意識だ。  オバマ政権(2009年~17年)の前半、米国はロシアとの関係改善に取り組み、米ロが配備する射程の長い戦略核弾頭を1550発まで削減する「新戦略兵器削減条約(新START)」を発効させた。  だが、2022年2月にウクライナに侵攻したロシアのプーチン大統領は、射程の短い戦術核の使用を示唆。新STARTの履行停止も一方的に表明した。新STARTは26年には失効する。  さらに、米国が戦略上の最大の競争相手と位置づける中国も核戦力の増強を続ける。核保有数は35年には1500発に達するとみられる。米国が事実上の核保有国とみなす北朝鮮も、核弾頭や核を搭載するミサイルの開発に余念がない。  この状況についてオバマ氏は「核の脅威が高まり、核を使うという脅しのタブーが弱まっている」と指摘。バイデン氏は「我々が協力して取り組んできた規範や合意をむしばんでいる」と表現した。核兵器をめぐる緊張が高まるなか、「使用のタブー化」という国際世論を改めて喚起したい思いをうかがわせた。  被爆を「悲劇」とし、そこから立ち上がった被爆者をたたえながら、米国の責任には一切言及しない点も、2人に共通している。オバマ氏は16年に現職の米大統領として初の広島訪問を果たし、バイデン氏も23年、主要国首脳会議(G7)の際に訪れたが、原爆投下に関する米国の責任には触れなかった。  15年に被爆者を招いてイベントを開いた米ペンシルベニア州の日系4世ロブ・ブッシャーさんは、オバマ氏の反応について「核の脅威についての力強い声明だが、米国の原爆投下に対する批判はなかった。オバマ氏をとても尊敬しているので、米国の核使用は間違っていたと示す政治的な勇気を見せてほしかった」と取材に答えた。  2人は「核なき世界の追求が不可欠」(オバマ氏)、「核兵器を永遠に無くす日に向けて進み続ける」(バイデン氏)との決意も改めて表明した。ただ、核軍縮を進める方法については、バイデン氏が「核の脅威を減らすため、ロシア、中国、北朝鮮とも前提条件なしに対話する」と表明するにとどまった。米国は、日本被団協が支持する核兵器禁止条約(核禁条約)にも反対の立場だ。  米国では「核なき世界」どころか、ロシアの威嚇や中国の核増強に対応して米側も核戦力を強化すべきだ、という見方が元政府高官からも示されている。オバマ政権で新START締結に尽力したゴットメラー元国務次官は9月、「核兵器増強は常に悪いことではない」と題した論考を英紙フィナンシャル・タイムズに投稿。中ロに核軍縮交渉への参加を促す手段として、米国の核戦力を高め、核関連の防衛産業の基盤を強化する選択肢を提言した。

にじむ「核使用」への危機感 オバマ氏から被団協への祝辞を読み解く

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「核不使用へ歴史的取り組み」 バイデン氏、被団協のノーベル賞祝福

 バイデン米大統領は13日(日本時間14日未明)、日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)へのノーベル平和賞の授与について、「核兵器が二度と使用されないための歴史的な取り組みが評価された」と祝福する声明を発表した。昨年の広島訪問に触れ「核兵器を永遠に無くす日に向けて進み続ける」との決意も表明した。  バイデン氏は声明で、被爆経験を語り継いできた日本被団協を「核兵器による壊滅的な人的被害の証言者の役割を何十年にもわたって果たし、人類が聞くべき物語を語ってきた」と称賛。「悲劇に直面した人間の決意と回復力を体現した」とした。  昨年、広島での主要7カ国首脳会議(G7サミット)で被爆者と面会した経験について「核兵器を世界から永遠に無くす日に向けて、進み続けなければならないと強く思わされた」と言及。ウクライナでの核使用を示唆するロシア、核戦力を増強する中国、事実上の核保有国となった北朝鮮を名指しし、「核の脅威を減らすため、中ロ、北朝鮮とも前提条件なしに対話する」との考えを改めて示した。  また、世界で核兵器使用のリスクが高まる現状について「我々が協力して取り組んできた(国際的な)規範や合意を浸食し、ノーベル平和賞受賞者(日本被団協)の重要な仕事に反するものだ」と指摘。「ノーベル平和賞受賞者からインスピレーションを得て、より安全な世界を築くという重要な仕事に取り組みましょう」と呼びかけた。

「核不使用へ歴史的取り組み」 バイデン氏、被団協のノーベル賞祝福
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