岡林佐和

経済部
専門・関心分野税と社会保障、ジェンダー平等政策

現在の仕事・担当

財務省で主に税の分野を担当しています。

バックグラウンド

経済部では労働政策や金融、民間企業など幅広く担当してきました。2021~23年にテレビ朝日へ出向していました。

仕事で大切にしていること

前例にとらわれないこと。

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「いいお嫁さんになるね」 20代のモヤモヤは国連とつながっていた

 今月、8年ぶりに国連の委員会が日本のジェンダー平等の取り組みを審査する。その行方に注目する一人が、長野県上田市に住む会社員、礒野仁美さん(29)だ。会社で、地域で日々感じるモヤモヤとつながっていると思うから。  神奈川県の出身。大学を卒業し、上田市の製造業の会社に就職した。モヤモヤは、4年前の入社直後から始まった。課長や部長といった80人ほどの管理職のうち女性は2人しかいなかった。同期の女性社員が重たい器具を運んでいたとき、ベテランの男性社員が声をかけるのが聞こえた。「いいお嫁さんになるね」  なんか、モヤモヤしたんだけど。年の近い同僚の女性に打ち明けると、「それ、やばい発言ですよ」と共感してくれた。このとき「考えすぎ」なんて言われていたらこの先のすべては起きなかったと思う。話せる仲間を得て、礒野さんにスイッチが入った。  ジェンダーやフェミニズムにかかわる本を読みあさり、長野県が開くオンライン無料講座でも学んだ。ニュースとして聞いたことはあっても、関係ないと思っていた「ジェンダーギャップ118位」の現実が、急に自分に降りかかってきたようだった。同僚と2人、映画を見て感想を語り合い、ジェンダーについて学ぶ場もつくった。 ■モヤモヤは世界とつながっていた  昨年5月、東京都内の勉強会に出かけ、知ったのが国連の女性差別撤廃条約だ。「女性に関わる世界の憲法」とも呼ばれ、日本を含む189カ国が批准。各国がこの条約を手がかりにジェンダー平等の取り組みを進めていると知り驚いた。  なぜ選択的夫婦別姓が進まないのか、なぜもっと手軽に避妊薬にアクセスできないのか、なぜこんなに国会議員に女性がすくないのか――。そのすべては、この条約とかかわっていた。「モヤモヤは私の考えすぎなんかじゃなく、むしろ世界の潮流そのものだったんだ」と思った。  条約をめぐる課題の一つが、実効性を高めるための文書「選択議定書」を日本は批准していないことだ。条約を締結する189カ国中115カ国が批准しているが、日本政府は「検討中」という姿勢を変えない。  選択議定書には、差別を国内で訴えても救済されない場合に国際機関に訴えることができる「個人通報制度」が盛り込まれている。ここ数年、「女性の権利を国際水準に」と、全国の地方議会から早期批准を求める意見書の採択が相次いでいる。  ところが長野県には、採択をした議会は一つもなかった。「あなたがやればいいじゃない」。そう声をかけられた。市民運動なんてやったことないけど、手探りでやってみるのもおもしろそうだ。よし、やるかと決意した。 ■長野で奔走 意見書の採択へ  地元で「上田ともし火」というグループをつくり、勉強会を重ねた。地域の祭りで、男性は力仕事、女性は台所仕事。そんな日常のモヤモヤを出し合うところから始めた。市議会のすべての会派をまわって勉強会を開いた。  勉強会のつてをたどり相談したところ、県内全域にネットワークを持つ女性団体とつながり、輪が広がった。新たに今年6月、県内の自治体議員や市民でつくるネットワーク「ヤマを動かそう!信州」が発足。8年ぶりの審査がある10月に間に合わせたいと、100人余りがLINEグループでつながりながら、各地で議会へ働きかけた。  各地の議会には男性も多いが「国際社会の一員としての責任がある」などと理解が広がった。上田市議会では今月2日、全会一致で、選択議定書の速やかな批准を求める意見書が採択された。77の市町村がある長野県内では、6月定例会で22(県議会を含む)、9月定例会で48もの議会で意見書が採択された。  きっかけをつくった礒野さん自身、「すごいことが起きた」と驚いている。「地元議会で意見書が採択されても、がらっと何かが変わることはないかもしれない。でもモヤモヤを感じてきた人たちどうしがつながって、自分だけじゃないと気づけた。地域で話せる場所が増えたことも、とても大きいと思う」  ジュネーブでどんな議論がされるのか。選択議定書の批准に、日本政府が前向きな姿勢を示すのか。注目したいと考えている。  市民団体「女性差別撤廃条約実現アクション」(共同代表=浅倉むつ子・早稲田大名誉教授)によると、10日現在で、全国の348自治体(13府県と8政令指定都市を含む)で批准を求める意見書が採択された。 ■日本政府はずっと「検討中」  選択議定書の批准をめぐり、日本政府の対応はにぶい。石破茂首相は8日、参院の代表質問で選択議定書の早期批准について問われこう答えた。  「条約の実施の効果的な担保を図る趣旨から注目すべきもの」。ただ「我が国の司法制度や立法政策との関係でどのように対応するかなどの検討すべき論点がある」として「早期締結について真剣に検討している」と従来通りの見解を述べるにとどまった。  個人通報制度をめぐる検討は1999年以降、外務省と法務省で研究会を重ね、2005年末からは外務省の下に省庁の担当者を集めた「個人通報制度関係省庁研究会」で続いている。隔年か1年ごとに開かれ、昨年12月に23回目の会合があったが、議事録は非公開。「真剣な検討」の出口はいまだに見えない。  選択議定書の批准は、なぜ必要か。  元最高裁判事の泉徳治弁護士は「個人通報制度が導入されれば、個人の権利の回復につながる」という。  例えば、選択的夫婦別姓をめぐる問題。高裁判決では「(女性差別撤廃条約は)個人の権利を保障していない」と判断する一方、最高裁は上告理由にあたらないとして、条約違反の主張に向き合わず、条約で保護されるべき個人の権利が侵害されている状態が続いている。「当事者が女性差別撤廃委員会に通報し、条約違反の勧告が出れば、日本政府も最高裁も勧告に向き合わざるを得なくなる。ひいては、国内の人権の水準を上げることにつながる」  女性差別撤廃条約の研究者の山下泰子・文京学院大学名誉教授は、今回の対日審査にあわせてスイス・ジュネーブの国連欧州本部に足を運んだ。1980年代から国連でのロビー活動に取り組んできた。「日本政府は20年以上、真剣に検討するといい続けてきた。折しも、総選挙の最中。石破首相の『早期締結』という言葉の中身が問われている。ジェンダーギャップ指数118位を脱却するには、できるだけ早く選択議定書を批准することが求められている」と話す。

「いいお嫁さんになるね」 20代のモヤモヤは国連とつながっていた

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地方から女性が消える 自治体に伴走してわかった「格差解消が鍵」

■【言わせて!私の争点】ジェンダーギャップ解消に取り組む 小安美和さん  人口減や人手不足に直面している地方自治体と、「ジェンダーギャップ解消プロジェクト」に取り組んでいます。宮城県気仙沼市では、市を中心に商工会議所、地域の中小企業を巻き込み、ジェンダー格差を見つめるところから始めます。  経営者の皆さんは最初、「うちの会社に男女格差なんてない」とおっしゃいます。あるのは職種による違いというわけですね。一方、女性社員のワークショップで尋ねると、たくさん出ます。お茶出しやトイレ掃除は女性ばかり、女性だけが制服着用といったことから、昇格は男性だけ、男の人は給料が高い……。  女性たちの意見と、地域の男女賃金格差などのデータを合わせて示すと、経営者の理解度がぐっと増します。経営者の意識変革と、女性社員に自信を持ってもらう研修を両輪でまわしながら、差別的な慣習や「無意識の偏見」に向き合って職場の変革を進めることで、女性社員の定着率を高め、意思決定に加わる女性を増やすことをめざします。  かつては、人手不足だから地域の女性活用が必要ですよね、というアプローチでした。「ジェンダーギャップの解消に取り組みたい」と地方自治体から依頼が来るようになったのはここ2年ほど。地方からの若い女性の流出が問題視されるようになったことが、背景にあると思います。 ■「地方創生10年」足りなかったのは?  「地方創生」がスタートして10年。政府は「結婚・出産・子育ての希望をかなえる」と掲げ、なかでも子育て支援がメインでした。しかも、女性が担うという前提の。男女の固定的な役割分担を内在化したまま10年続けてきたといえます。そうではなく、これからは男女格差の解消を中心にすえるべきだと思います。まず現在地を知るため、市や町の単位で男女賃金格差を算出する事業に交付金を出してはどうでしょうか。また、中小企業支援は一律ではなく、こうした構造変革に前向きな中小企業を助成金などで支援していくべきだと思います。  人口減や人手不足に悩む地方の中小企業の方が切実な分、変革が始まれば、スピードが速いかもしれません。「家父長的価値観」をアップデートできれば、日本の地方には大きな可能性があると信じています。      ◇  リクルートで求人メディア事業の経営企画や、子育てしながら働きやすい社会をつくるプロジェクト「iction!」を手がけ、退社後の2017年にWill Lab設立。全国各地でジェンダーギャップ解消や女性リーダー育成に取り組む。53歳。 ■<地方創生と若年女性の流出>  「地方創生」の取り組みが本格的に始まったのは安倍晋三政権下の2014年。初代の地方創生相に就いたのが石破茂首相だ。この10年について内閣府は今年6月、「人口減少や東京圏への一極集中などの大きな流れを変えるには至っておらず、地方が厳しい状況にあることを重く受け止める必要がある」と総括した。  地方から東京圏への人の流れは止まらず、転出超過は特に女性が多い。その原因について、国土交通省は2022年、より意欲的な仕事を求めていると分析。さらに「固定的な性別役割分担意識が閉塞(へいそく)感を生み、地域から出たいという希望につながっている」と指摘した。

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