高橋尚之

デジタル企画報道部
専門・関心分野災害復興、エネルギー、原発、中小企業

現在の仕事・担当

ミドル世代向けに、セカンドキャリアや働き方、世代論に関するテーマを取材。人生の後半戦を過ごすうえでヒントになる記事の発信を目指しています。

バックグラウンド

1987年生まれ。2011年に入社し、奈良県、福島県での勤務を経て経済部に。他地域に先駆けて原発の再稼働が進んでいた九州で、エネルギー分野の取材を担当しました。21年から3年間は、中小企業経営者向けウェブメディア「ツギノジダイ」の編集部に所属し、24年春から現職。学生時代に植村直己さんの著書を読んで感動したことが、記者を目指したきっかけです。

仕事で大切にしていること

2012年度~15年度と、東日本大震災後の混乱が残る福島県で勤務をしました。現地に住んで感じたのは、東京からの視点で語られる「被災地」としての福島のイメージと、県内での生活者の視点から見える福島のイメージが、大きく異なっていたということです。このときの経験から、先入観を極力廃して現場の一次情報にしっかりあたること、複雑な事象を過度に単純化しないことを、仕事で意識しています。

タイムライン

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老害を生む「距離感のバグ」とは 年齢自虐はNG オススメはI話法

 よかれと思って職場の若手にアドバイスしたつもりなのに、なぜか疎まれてしまう――。企業研修などを手がける心理カウンセラーの五百田(いおた)達成さん(50)は、こうした事態の背景に「距離感のバグ」があると指摘します。著書「話し方で老害になる人尊敬される人」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)で、コミュニケーションのNG事例をまとめた五百田さんに、若手と接する際の心構えを聞きました。  ――「距離感のバグ」とはどういうことですか。  誰かと仕事をするとき、相手によって適切なコミュニケーションの距離感ってありますよね。たとえば上司や社外の取引先とのやりとりでは、多くの人がそれぞれ自然に適切な距離をとれていると思います。  でも相手が後輩や部下になった瞬間、なぜかこの距離感を見誤ってしまうことが多い。結果、「老害」と疎まれたり、セクハラ・パワハラにつながったりしてしまう。これが距離感のバグです。  ――どんなパターンがありますか。  距離感が近くて踏み込みすぎているパターンと、距離感をとりすぎて腫れ物に触るように扱ってしまうパターンの二つがあります。  踏み込みすぎのパターンは、旧態依然とした部活文化、会社文化の延長です。「俺たちはファミリーだ」「同じ釜の飯を食べてきたんだから隠し事はなしだ」というようなノリですね。  若手に対して「これやっとけ!」と高圧的な物言いをしたり、「彼女いないの?」とプライベートにがさつに踏み込んだ質問をしたりして、ハラスメントにつながるのはこのパターンです。 ■「本音はどうでもいい」割り切りも必要  ――相手のためと思って、距離をつめるケースもあると思います。  年長者のなかには「本音を聞かせて」「ハラを割って話そう」と若手に迫る人もいますが、これも踏み込み過ぎの例と言えます。  立場を超えた信頼関係は一朝一夕には作れず、若手からすれば、どこまでいっても上司は上司。そうそう簡単に心を開ける相手ではありませんし、「本音を聞かせて」と一方的に迫ることは、「圧」にほかなりません。  自分たちはあくまで上司役・部下役を演じているに過ぎず、「本音はどうでもいい」と割り切って接することを、基本姿勢にしたほうがよいです。  ――「距離感のバグ」のもうひとつのパターンは。  距離をとりすぎて、腫れ物に触るように接してしまうというものですね。「嫌われないように接する」などと遠慮しすぎた結果、注意や教育がいきとどかず、若手が孤立したり突然離職したりするケースが見うけられます。近年、コンプライアンスの強化に加え、コロナ禍でリモートワークが増えたことで、このパターンは増えたように思います。 ■「同世代の得意先」がちょうどいい  ――「バグ」をおこさないためには、どんな距離感を意識するのがよいですか。  社内の部下や後輩であっても、「同世代の得意先」と思って接するくらいがちょうどいいんじゃないかと思います。  敬語を使うのが普通で、仲良くなったら冗談を言いあうこともあるけれど、絶対に失礼なことは口にしない。お互いお願いごとをしたりされたりして、相手にミスがあれば淡々と指摘して改善を求める。そんな関係性のイメージです。  ――実際、若手にどう注意したらいいかわからないという話はよく聞きます。どんなポイントがありますか。  遠回しに言わず、事実をストレートに指摘するのが正解です。  たとえば経費精算の遅れを注意するとき、変に気を使って「細かいことは言いたくないんだけど…」などとよけいな前置きをすると、かえって話がまどろっこしくなり、ネチネチした印象を与えます。「私は気にしないけど、他のみんなが…」と人のせいにするのも、保身の気持ちがばれてなめられます。注意の意図が伝わりません。  「経費精算は○○日までにきちんとやってください。でないと部全体が困ります」という風に、指摘を事実関係にしぼってバシッと言った方が、意図がしっかり伝わるでしょう。今の若い世代は、昔のように声をあららげて怒られることには確かに慣れていませんが、理路整然と注意すればちゃんとわかってくれる人は増えているように思います。  ストレートに伝えたうえで、最後に「わからないところはある?」とフォローの一言を入れるのが理想的です。 ■余計な前置きをなくす「I話法」  ――余計な前置きや言い訳、私もよくやってしまいます。  主語を大きくせず、「私はこう思う」と主観を述べる話法「I(私は)話法」を意識するのがおすすめです。  部下に頼みごとをする時、「この仕事はあなたのためにもなるから…」と言う人がいますよね。でもこの言い方だと、自分は悪者になりたくないという保身の意図が部下に透けてしまいます。I話法を意識して主語を自分に引きつけ、「この仕事をやってほしいです」「困っているので助けてくれませんか」という風に頼んだほうが、変な理屈をつけず、対等な立場でやりとりができます。  ――著書では「自分はおじさんだからお酒が翌日に残って…」といった年齢自虐もやめたほうがいい、と指摘しています。  なぜそういう自虐を言ってしまうのかというと、相手に批判される前に「自分はおじさん・おばさんだと自覚してますよ」と先手を打って予防線を張ることで、衝撃をやわらげたいという気持ちが働くからではないかと思います。  でもこれって結局、「いやいや部長はまだまだ若いですよ」っていうフォロー待ちなんですよね。本人にそのつもりがなくても、立場を考えれば若手としてはフォローせざるを得ない。無用な気遣いをさせているという点では、ないほうがいいものだと思います。 ■「世代」のくくりで決めつけない  何より年齢の自虐を持ち出すと、目の前の相手との間に壁を作って、1対1の関係を阻害することになるのでもったいない。  ――どういうことですか。  若手が最近の好きな音楽について話してくれたとき、「俺おじさんだから最近の知らなくってさー」と言ったら、せっかくのコミュニケーションがそこで途絶えてしまいますよね。  若手に対して「今の若い子はみんなTikTokやってるんでしょ?」などと聞くのも同様です。相手からしたら、世代という雑なくくりで決めつけられて、個人としての自分が無視されたような気持ちになる。シンプルに「あなたはどんなSNSを使ってるの?」と聞けばいいわけです。  そもそもたいていの会話は、年齢の話題や、世代間ギャップを持ち出さなくても成立します。「自分たちのころは~」「令和世代は~」と言いたくなるのをぐっとこらえて、相手と1対1でフェアに向き合うことが、信頼関係を築くことにもつながるのではないでしょうか。         ◇  いおた たつなり 東京都出身。角川書店で雑誌・書籍編集を、博報堂でプランニングやコピーライティングを手がけた後、2007年に独立。作家・心理カウンセラーとして、話し方についての執筆や講演を手がける。他の著書に「超雑談力」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など。           ご意見をdkh@asahi.comまでお寄せください。

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男性にも更年期障害 広がる支援の動き ホンダや鳥取県庁でも

 男性更年期障害を理解し、支援する動きが、企業や自治体で広がっている。症状があっても気づかなかったり、言い出せなかったりする人は潜在的に多いとみられる。適切に対処するには、まずは正しく知ってもらうことが重要になりそうだ。  従業員の9割が男性というホンダは、2022年の10月から、社内向けに本格的な啓発活動を始めた。まず力をいれたのは、まだまだ実態が知られていない男性更年期障害の認知拡大だ。  企業のヘルスケアを支援するクレードル(東京・渋谷)のサービスを活用し、症状や治療法を医師が解説するオンラインセミナーを、従業員や家族が聴講できるようにした。  メールの社内報でも、男性更年期障害に関する解説をたびたび掲載。メールの情報を見た男性従業員が不調の原因に気づき、適切な治療で回復したケースもあった。仕事のパフォーマンスも向上したという。  こうしたケースについて、キャリア・多様性推進室室長の橋本昌一さんは「おそらく氷山の一角」とみる。「私も含め、今の40代以上は『男は弱みを見せちゃいけない』と育てられてきた世代。相談しやすい環境を作るためにも、『男性更年期障害は誰にでも起こりうることで、恥ずかしいことじゃない』と繰り返し周知していきたい」と話す。  鳥取県庁では23年10月から、休暇制度での支援をしている。更年期障害とみられる症状で業務が困難な職員は、年間5日までの特別休暇を取得できるようにした。休み中も給与は支給され、対象は男女を問わない。開始から半年で、女性で16人、男性で9人の取得があったという。  制度開始前の23年春には、職員向けのアンケートを実施。更年期症状の有無について訪ねたところ、1177人の回答者のうち、「有り」と答えた人の割合は女性が41%、男性でも31%にのぼった。  厚生労働省が22年3月に実施した「更年期症状・障害に関する意識調査」によると、男性にも更年期にまつわる不調があることについて「よく知っている」と答えた人の割合は、50~59歳の男性でも15.7%にとどまった。また更年期症状を自覚した人のうち、医療機関を「受診していない」と回答した人の割合は86.5%で、女性に比べて医療機関での受診に後ろ向きな傾向もうかがえた。  順天堂大学大学院主任教授(泌尿器科学)の堀江重郎さんは「男性の場合、更年期障害を認めることは現役から遠ざかるというイメージがあるからなのか、『症状を認めたくない』『周囲に言いにくい』と考える人が多くいます」と指摘。職場などで適切な治療の機会につなげるためにも、「『男なら我慢せよ』『死ぬ気でやれ』といったマッチョな風潮のままではだめです。男性にも更年期障害があって不調になりうることが、もっと知られていいと思います」と話す。         ◇ ■男性の更年期障害とは  男性ホルモン(テストステロン)の急激な減少によって、体や心に影響が出て日常生活に支障をきたす状態。疲労感、発汗、不安、いらいらなどの症状がある。女性の更年期障害と異なり、発症の有無や時期は個人差が大きい。環境変化によるストレスや、栄養不足が原因になりうる。回復には、食生活の改善や適度な運動が有効とされる。

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謎のモヤモヤ 社内メールで気づいた男性更年期 企業など支援の動き

 男性更年期障害を理解し、支援する動きが、企業や自治体でじわりと広がっている。これまで「気持ちの問題」と見過ごされがちだったが、仕事への悪影響が無視できないこともわかってきた。  「意欲がわかない。なんでこんなに気持ちが落ちこむんだろう」  ホンダでITエンジニアとして働く安藤健一さん(48)が違和感に気づいたのは、コロナ禍が続く2022年のなかごろだった。  当時は、経理などバックオフィス分野のデジタル化を進める業務を担当。もともとエネルギッシュに働くのが好きで、色々な業務効率化のアイデアを積極的に提案していた。  しかし、気持ちの落ち込みとともに新しいことを考えるのがだんだんとおっくうになり、提案の数は目に見えて減っていった。「アイデアを考える意欲そのものがなくなっていました。過去に経験したことがないような違和感でした」  上司にも「なぜか気分が晴れない」と告げ、業務面で配慮をしてもらった。しかし不調の原因はわからず、症状も改善しないまま数カ月が経過。解決の糸口になったのは、会社から届いた一通のメールだった。  メールは、男性更年期障害への理解を社内で広めようとする、健康推進室などの取り組みの一環だった。そこに書かれた心の症状に、自分も当てはまっていた。  「更年期障害は女性がなるものと思っていたけど、自分の不調の原因はこれかもしれない」。メールをきっかけにウェブや雑誌で調べ、泌尿器科を受診した。男性ホルモンであるテストステロンの値を血液検査ではかると、「数値が低い状態」と告げられた。気分の落ち込みは、テストステロンの低下による男性更年期障害と診断された。  男性更年期障害は、職場の環境変化が発症の要因となりうる。安藤さんの場合、コロナ禍のリモートワークで運動や外出がめっきり減ってしまったことが理由とみられた。  医師からは「歩くことでテストステロンが出る」と説明を受け、ウォーキングと漢方の服用で療養をすることになった。朝方30分のウォーキングを週2、3回。すると半月ほどで手応えがあり、心のモヤモヤが少しずつ晴れていった。2カ月ほどたつとすっかり元気になり、仕事でも元通り新規の提案を出せるようになった。  「男性更年期障害について知るきっかけをもらったことで回復でき、本当によかった」と安藤さん。「僕らの世代は『男は弱音を吐いちゃいけない』という価値観がまだ残っている。症状があっても、周りに言い出せない人はけっこういるんじゃないかと思います」  ホンダが、社内での啓発を本格的に始めたのは22年の10月ごろ。「更年期障害を抱えながら働いている従業員への配慮をしてほしい」という声が、社内の健康推進室に寄せられたことがきっかけだという。 ■更年期は「恥ずかしいことじゃない」  まず力をいれたのが、そもそも存在が知られていない男性更年期障害の認知拡大だ。  企業のヘルスケアを支援するクレードル(東京都渋谷区)のサービスを活用し、症状や治療法を医師が解説するオンラインセミナーを、従業員や家族が聴講できるようにした。従業員向けサイトやメールでの社内報でも男性更年期障害についての解説をたびたび掲載。閲覧数が大きく伸びることもあり、潜在的な関心の高さを感じたという。症状に心当たりのある従業員には、会社の産業医などへ相談するよう勧めている。  取り組みを進めるキャリア・多様性推進室室長の橋本昌一さんは「従業員が不調を抱えたまま働いていては会社としても大きな戦力ダウン。相談しやすい環境を作るためにも、『男性更年期障害は誰にでも起こりうることで、恥ずかしいことじゃない、普通のことですよ』と繰り返し周知していきたい」と話す。  同室主任の池谷リサさんも「弊社は従業員の9割が男性という会社。女性が抱える更年期障害について理解してもらうためにも、男性更年期障害に目を向けてもらうことは有効だと考えました」と話す。 ■髪の毛での手軽な検査も  ベンチャー企業のTRULY(トゥルーリー、東京都渋谷区)は、髪の毛を使った検査キット「MENOPO CHECK FOR MEN」を、23年8月から販売し始めた。  男性更年期障害のうち、「筋肉痛」や「不安」といった症状は、加齢やうつ病によるものと区別がしにくい。見分けるためには、テストステロンの値が下がっていないか調べることが必要になる。  一般的な方法は、泌尿器科に足を運んで血液検査をするというものだが、TRULYの検査キットは、自身の髪の毛10本を3センチほど切って自宅から郵送するだけで検査が可能になる。提携する製薬会社の検査機関で髪の毛を調べ、2~3週間ほどで結果がスマートフォンに届くしくみだ。数値に応じて、専門家からのアドバイスも届けられる。  検査キットは大手企業も活用する。住友生命保険では、希望する従業員が検査キットを無料で利用できる機会を設けた。KDDIでは、男性社員向けの健康ケアを進めようと、検査キットの利用で社員の意識がどのように変わるかを検証しているという。  TRULYのCEOの二宮未摩子さんは「男性更年期障害について打ち明ける著名人が相次いだこともあってか、企業の関心もここ数年で高まりつつある。他の病気のリスクを特定するためにも、まずはテストステロンの低下による男性更年期障害を疑ってみることは重要」と話す。 ■休暇制度で支援  自治体も動き出している。  都道府県でいち早く取り組みを進めるのは鳥取県だ。23年10月から、更年期障害とみられる症状で業務が困難な職員は、年間5日までの特別休暇を取得できるようにした。休み中も給与は支給され、対象は男女を問わない。開始から半年で、女性で16人、男性で9人の取得があったという。  23年春に行った職員向けのアンケートで更年期症状の経験の有無を訪ねたところ、1177人の回答者数のうち「有り」と答えた人の割合は女性が41%、男性でも31%にのぼったという。  「女性に限らず、男性でも更年期障害とみられる不調を訴える人が一定数いることがわかった。仕事との両立を支援するため、特別休暇制度を設けるにいたった」と、人事企画課の担当者は話す。  男性更年期障害を理由とする特別休暇制度は、大阪府四條畷市、香川県東かがわ市の役所でも実施している。         ◇  ご意見や体験をdkh@asahi.comまでお寄せください。

謎のモヤモヤ 社内メールで気づいた男性更年期 企業など支援の動き
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