松浦新

経済部
専門・関心分野不動産、IT、社会保障

現在の仕事・担当

関心がある取材テーマは以下の通りです。

  • 地方を中心に所有者不明の不動産が増えていること
  • タダでもいいから引き取ってもらいたい空き家に高い固定資産税が課されていること
  • コロナ禍でテレワークが広がり、移住する人が増えたこと
  • 年金、医療、介護などの社会保障が無理に無理を重ねて現実離れしていること
  • 企業と働き手のミスマッチが生む人手不足
  • 税、保険料、金利、金融商品の都市伝説

バックグラウンド

社会に出て39年。記者以外の名刺は持ったことがありません。1985年NHK記者。1989年朝日新聞記者。千葉、経済部、週刊朝日、オピニオン編集部、特別報道部など。2021年から経済部です。

仕事で大切にしていること

「雑食」を大切にしています。たとえば2022年の夏、私のツイッター(現X)に載せたメールアドレスに「AIによる契約書審査に関心がありませんか」と連絡がありました。全く知らない分野でしたが、弁護士以外が契約書審査をすることが「弁護士法」に違反する可能性があると知り、記事にしました。結局、昨年8月に法務省がガイドラインを公表しました。また取材の過程で企業内弁護士が増えていることを知り、企業法務の世界に興味を持ちました。若い裁判官が次々に辞めていることも聞き、記事にしました。家庭裁判所の態勢が現実から取り残されていることも知ることになりました。

著作

  • 『プロメテウスの罠』(学研、2012年)=共著
  • 『電気料金はなぜ上がるのか』(岩波新書、2013年)=共著
  • 『ルポ 老人地獄』(文春新書、2015年)=共著
  • 『ルポ 税金地獄』(文春新書、2017年)=共著
  • 『負動産時代』(朝日新書、2019年)=共著

論文・論考

タイムライン

記事を書きました

法務分野にAIサービス続々、業務増に人材不足で 将来に警戒の声も

 ChatGPT(チャットGPT)などのAI(人工知能)を活用し、企業の法務分野を支援するサービスが広がっています。背景には法令順守の徹底などで業務が増えているのに、人材が足りないことがあります。一方、サービス内容は従来、弁護士が担っていた業務で、進化するAIに今後、仕事を奪われる可能性を心配する人もいます。  「面倒な契約書の要点がわかる」「法律に詳しくなくても自分の課題にあった文献を検索できる」――。  いま、法務に強いIT企業が、企業の法務担当者らを支援するサービスを相次いで提供している。  法務ITの「リーガルオンテクノロジーズ」(東京)は10月中旬、チャットGPTを活用して契約書の中身を要約したり、翻訳したりできるサービス「リーガルオンアシスタント」を始める。契約相手に変更点を伝えたり、上司に報告したりするための文書作成に役立つと見込む。企画担当の早津誠文さんは「文書を効率よく作るために活用してほしい」と話す。 ■「仕事が爆発的に増えた」  同社は2017年、契約書に必要な条項の抜けや見落としのチェックをAIが支援するベンチャー企業として設立され、さらなるサービスの拡充を進めている。  法律相談サイトなどを運営する「弁護士ドットコム」(東京)が8月に始めたサービスもチャットGPTを活用。「統合型AIリーガルリサーチツール」という、このサービスでは、法律用語がわからなくても、知りたいことを文書で入力すると、裁判の判例や法律書籍のデータベースから答えを引き出すことができる。文献の要約も示されるため、目的に合ったものかどうかの確認もしやすいという。  同社ではほかに、AIを使った法律相談や社内規定作成など、展開済みを含めて6分野の21サービスの開発を進めていく考えだ。  こうしたサービスが増えた背景には、事業の国際化や法令順守への対応で法務の仕事が増えていることがある。  企業内弁護士で作る日本組織内弁護士協会の渡部友一郎理事は「規制の国際化、複雑化に加え、国際的な緊張の高まりで、法務の仕事が爆発的に増えたが、人材不足で人員が増えない。効率化は死活問題」と話す。  企業の法務担当者で作る「経営法友会」が20年に実施したアンケートによると、法務部門の「今後の課題」として、最も多くの回答が集まったのは「法務業務の効率化・IT化」だった。複数回答で、回答者の49%が選び、5年前の前回調査の15位(22%)から大きく増えていた。このアンケートから4年がたち、現場で課題に直面している担当者も少なくない。  採用でも、即戦力を求める傾向が強まっている。「(他社などの)法務担当者を中途採用する」が58%と最も多く、5年前の前回調査を11ポイント上回った(複数回答)。勤務経験のない新卒者は40%だった。  AIサービス活用以外にも、法務の仕事を効率化として業務を外注する動きもある。  EY弁護士法人は、企業の契約書のうち、定型化できるものや比較的リスクが低いものをまとめて弁護士が確認するサービスを23年に始め、約10社から受託している。最近は毎日数件の問い合わせがあるという。  担当する前田絵理弁護士は「法務部は責任領域の広がりから現有勢力を付加価値の高い業務に充てたい。リスクの低い契約書を外注で効率よく、安く審査するサービスは欧米では確立されている。その波が日本にも来ている」と話す。 ■法務省ガイドラインで「解禁」  法務支援のAIブームともいえる状況を後押ししているのは、法務業界独自の事情もある。「弁護士法の壁」の変化だ。  弁護士法では、弁護士と弁護士法人以外が、報酬を得る目的で法律事務を扱うことを禁じている。AIによる契約書審査サービスを利用する会社が増えて、一昨年、法に抵触するのでは、という指摘が相次いだ。  そうした中、法務省は昨年8月、「違反にならない場合のガイドライン」を公表。審査対象の契約書に契約者間のトラブルなど「事件性」がない場合には使えるなどと明示した。  法務省は契約書審査に限ったガイドラインだと説明するが、弁護士ドットコムの元栄太一郎社長はAI活用の広がりに期待を寄せる。  元栄社長は「弁護士法は非常に抽象的なので、線引きがあいまいだった。ガイドラインでホワイトゾーンが明らかになった。契約書にとどまらず応用ができる」と説明する。  大手弁護士法人も関心を寄せる。アンダーソン・毛利・友常法律事務所が弁護士ドットコムと提携するなど、法務系IT企業と大手弁護士事務所の提携が相次ぐ。  リーガルオンテクノロジーズと提携した、森・濱田松本法律事務所の飯田耕一郎弁護士は「弁護士の仕事はコンピューターにはできないと考えていたが、生成AIで様変わりした。分野によっては若手弁護士レベルの仕事ができるようになる可能性も感じる」とみる。  法務分野のAIに詳しい松尾剛行弁護士は「AIで弁護士の仕事がなくなることはない。ただし、正解があって付加価値が高くない仕事はなくなる」と指摘する。  今後、企業でも大手法律事務所でも、新人の社員や弁護士に向く仕事が減る可能性が課題になる。松尾弁護士は「若手がAIを使って効率的に仕事ができるまでの教育の場をいかに確保するかが課題になる」と話す。そこで、大学の法学部で企業法務部の新人レベルの実務を教えることに力を入れているという。 ■「交通事故の損害賠償はAIが学習しやすい」  法律事務で活用が進むAIだが、弁護士の仕事を奪うようになるのか。弁護士からは警戒する声も出ている。  「まず活用されるのは交通事故。この2冊をインプットすればAIは相当に活躍しますね」  東京・神田に事務所を構える高中正彦弁護士は、交通事故の損害賠償の算定について具体的に書かれた2冊の本を前に話す。  交通事故の損害賠償は比較的ルールがわかりやすく、公開されている事例も多い。AIに学習させれば賠償額の算定がしやすくなるという。  ただ、現在はAIに算定させることは難しいとされる。法務省のガイドラインでは、AIが「事件性」のある事案を扱うと弁護士法違反に問われる可能性が高いからだ。  米国でも法務関連サービスを展開するリーガルオンテクノロジーズの谷口昌仁執行役員も日本で対応できる限界を指摘する。「AIは契約書をゼロから作ることも可能だが、契約ごとの背景事情などを踏まえて個別に法的リスクを判断して作成するツールは、日本では弁護士法があってサービスとして提供することはできない。日米で提供できる機能に差がある」  しかし、高中弁護士は「いまはガイドラインを守る事業者がやっているが、やがて『事件屋』まがいが法律相談分野に参入する。便利で安価であれば国民は支持する」と指摘。ガイドラインはいずれ変更を迫られると見る。  一方、企業の側から見ると、いまのAIにできることは限られている。  住宅用品大手のYKKAP(東京)の石井隼平専門役員(社内弁護士)は「いまのAIは、法改正や最高裁判例などの最新の実務を確認する必要がある。AIは責任を取らない。人の確認、判断が必要だ」と話す。ただ、AIの急速な進歩には期待するという。「ビジネスを進めるうえで法律は基盤です。AIを活用して効率化し、より貢献できる分野に注力したい」  科学技術の社会的位置づけを研究する東洋大文学部の松浦和也教授も「生成AIの回答は人がチェックする必要がある。学習した情報の平均的な答えを並べただけなので、整合性は期待できない」と、指摘する。  AIは学習した情報が間違っていたり、古かったりしてもそのまま出してくる。「答えが正しいかどうかは詳しい人にしかわからない。詳しい人は答えを知っているという矛盾を抱えることになる」と話している。

法務分野にAIサービス続々、業務増に人材不足で 将来に警戒の声も

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官製ファンドからの出資直後「不適切会計」公表 株急落で巨額含み損

 官製ファンド「産業革新投資機構(JIC)」が支援する企業が、JICから約40億円の出資を受けた直後に不適切な会計処理を公表し、株価が急落する事態を招いていた。JICは巨額の含み損を抱えることになったが、損害賠償は請求しない方針だ。公的資金を扱う組織としての対応が問われる。 ■岸田政権の肝いり政策  この投資は今年2月にJIC傘下のスタートアップ育成ファンドが、エネルギー関連会社「エネチェンジ」(本社・東京)の第三者割当増資を引き受ける形で実行した。この育成ファンドは岸田文雄政権の後押しで2023年に立ち上げたもので、これが実質的な「第1号案件」だった。  エネチェンジは東京証券取引所グロース市場上場で、電気やガス料金の比較サイトを運営する。最近では電気自動車(EV)の充電ステーションの運営などにも乗りだし、JIC側はその成長性に目を付けて、出資を決めたもようだ。  エネチェンジが2月9日に公表した23年12月期連結決算では、売上高が前年比77.4%増の66億円、純損益は12億円の赤字だったものの、自己資本比率は34.6%あるとしていた。だが実際には売上高は3分の2程度で、債務超過だった。  JIC側は同26日に1株1057円で約380万株(約40億円)を引き受けた。エネチェンジは9日後の3月6日、監査法人との間で会計処理をめぐるトラブルになっていることを公表し、3月末には外部調査委員会を設置して検証すると明らかにした。その結果、株価が急落し、足元では260円前後にまで低迷。JICは30億円近い含み損を抱えている。 ■監査法人に見破られた「手口」  エネチェンジの公表資料などをひもとくと、不適切な会計処理は次のような「手口」だった。  ①エネチェンジの前最高経営責任者(CEO、7月末に退任)が実質的に資金提供してEV関連事業の特別目的会社(SPC、EV充電インフラ1号合同会社)を設立  ②エネチェンジのグループ企業が、SPCに充電装置を販売  ③会計上は第三者に販売したことにして、エネチェンジの23年12月期連結決算に反映  実際には「身内」の会社に装置を売っていたわけだが、本来はグループ内での販売は連結決算で売上高として計上できない。逆に損失があれば連結決算に反映しなければならない。このスキームは監査法人に見破られ、エネチェンジは決算の修正に追い込まれた。  その結果、修正前に比べて売上高が約22億円少ない約44億円、逆に純損失は約37億円増えて約50億円となった。一転して約15億円の債務超過だったことも判明した。 ■監査法人に「黙って巻きたい」  エネチェンジが6月に公表した調査報告書によると、前CEOらは、不適切な会計処理が発覚した時点で、一部の電子メールなどの記録をパソコンなどから消していた。そのことを外部通報で知った監査法人の求めで、記録を回復する「デジタルフォレンジック」を実施した。  この調査で、監査法人は、エネチェンジから報告を受けていないことが複数わかり、重要な虚偽表示の原因となる経営者による不正があったと主張した。前CEOがSPCの出資者に資金を貸しており、エネチェンジがSPCの実質的な意思決定をしていた、というものだ。  デジタルフォレンジックを通じて監査法人は、エネチェンジ側がいちど販売した充電装置を、一定期間後に下取りするしくみをつくっていたとも指摘した。前CEOはビジネスチャットツールの「Slack」で、「僕らが下取りをする、というのを裏で巻くことをしていいならできますが、ここは監査法人に黙って巻きたい」などと書いていたからだ。 ■損害賠償請求を受けるリスクがあるとしつつ……  これを受けてエネチェンジが7月に公表した有価証券報告書は、充電装置の会社を実質的に支配していることを認め、連結子会社に加えた。そこには、JICから「損害賠償請求を受けるリスクが理論上あります」とも記された。出資時の契約で、連結財務諸表の正確性を保証する条項があるためだ。その一方で、JIC側との間で「現時点では損害賠償請求の予定はない旨を確認しております」とも書いている。  この点について、朝日新聞がJICに確認したところ、損害賠償については「有価証券報告書の記載のとおり」と認めた。そのうえで、「(エネチェンジが)賠償責任を負うかどうかについて、判断する立場にないと考えております」と答えた。  不適切な会計処理については「(エネチェンジと)監査法人の間における、会計面での見解の相違が主な原因であると認識しております」とした。あくまで見解の違いであって、決算をよく見せるために不適切な会計処理をしたわけではない、という認識を示した。  エネチェンジの前CEOは、有価証券報告書が出たあとの7月末で退任し、今年2月に他社から転職して執行役員に就任したばかりの丸岡智也氏が9月にCEOに就任した。 ■企業統治(コーポレートガバナンス)に詳しい遠藤元一弁護士の話  エネチェンジの前最高経営責任者(CEO)は企業会計への理解が不十分だ。おそらく売り上げを膨らませたいとの動機が推測されるが、会計基準の隙をつくような手法を上場企業のトップが主導するのは資質に欠けている。  同社のガバナンスも問題だ。取締役会の過半数を社外取締役が占めているが、情報が上がらない状態だった。ブレーキ役である社外取締役に業績連動報酬があるなど問題点が多い。  調査報告書もあいまいな評価に終始しており、不十分だ。一般株主でも損害賠償請求訴訟をすることが可能なのに、国の金を預かるJICが、エネチェンジに対して損害賠償請求を含む法的手続きをとらないことを早々と宣言している理由は不明だが、「前CEOによる意図的な不正とは認められない」とする本報告書を免罪符(隠れみの)としている可能性は否定できない。  監査法人はこの報告書を不適切と判断し、見解書を出している。エネチェンジは監査法人の見解書を公開し、どちらが信頼できるか市場の判断を仰ぐべきだ。

官製ファンドからの出資直後「不適切会計」公表 株急落で巨額含み損

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エネチェンジの不適切会計、なぜ起きた? 丸岡智也・現CEOに聞く

 岸田文雄政権肝いりのスタートアップ育成事業をめぐり、官製ファンド「産業革新投資機構」(JIC)が約40億円を出資したエネルギー関連会社「エネチェンジ」で、売上高を水増しする不適切な会計処理があった。問題の発覚時に最高会計責任者(CFO)として同社に入り、9月から最高経営責任者(CEO)を務める丸岡智也氏が朝日新聞のインタビューに応じた。  ――問題をいつ知りましたか。  「2月に監査法人から外部通報があった旨の連絡を受けた。監査法人がデジタルフォレンジック(PCなど電子媒体の調査)をすることになり、何も検出されなければ、監査意見をもらえると思っていた。調査の結果、前CEOがSPC出資者に資金支援していることがわかった。取締役会にも報告されていないことで、大きな問題になると思った」 ■「最初は赤字でも、普及とともに黒字転換していく」  ――なぜ、EV充電事業に会計を切り離すSPC(特別目的会社)を使ったのですか。  「ベンチャーが新しい事業を始めるには財務への負担も大きい。外部資本を活用しながら広げていけないか、前経営陣はそう考えてSPCにたどり着いた。例えば航空機ファイナンスや不動産の流動化などの場面でも用いられる一般的な手法であり、外部資本を活用しながらEV充電事業を成長させていく方法として活用するに至ったと理解している」  「今回、当社はSPCを連結することとしたが、EV充電事業については、最初は赤字でも、普及とともに黒字転換していく前提で考えている。将来的に使われていく。そういう未来をつくっていこうという思想の下で進めている」 ■「外部調査委の結果を尊重する」  ――前CEOも問題があることがわかっていたから、EV充電機器の買い取りの契約について、コミュニケーションツールで「監査法人に黙って巻きたい」などと書き込みしてたのではありませんか。  「前任者の行動なので、推測しかできない。そういう見方もあると思う。経営者としては必ずしも適切な行動・言動ではない。問題があることがわかっていたか否かは認定の問題だ」  「会社がお願いした外部調査委員会が『不適切な言動はあったが、隠蔽(いんぺい)の事実は認められなかった』と認定している。外部調査委員会は、当社と利害関係のない独立性、中立性を有する外部の専門家で構成され、公正な調査と事実認定が担保されていると考えている。約3カ月にわたり詳細かつ直接的な調査を実施したと受け止めているので、我々はその結果を尊重していく」  ――CEOを引き受けたのはなぜですか  「外部委員会の調査中は、前CEOは再発防止の策定に関われない。その中で誰がリーダーシップを取るかというと、私しかいなかった。優秀な社員もいて、意味ある活動をしている。EV充電事業そのものには意義を感じている。私がリーダーシップを発揮して、着地させていく。そこは使命感をもって、やりきろうと思っている」

エネチェンジの不適切会計、なぜ起きた? 丸岡智也・現CEOに聞く
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