(パブリックエディターから 新聞と読者のあいだで)多メディア時代、情報の目利き役に 藤村厚夫

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 インターネットを通じたニュースとの接触が全盛の時代、読者は新聞(デジタル・紙面問わず)に何を求めているのか。朝日新聞が設ける「パブリックエディター」として、新聞と読者の間に立って新聞の果たす使命を考える自分に改めてこの問いを突きつけてくれた記事がある。

 それが、2025年2月18日付朝刊「(メディア空間考)多媒体時代の取材 特ダネも、『発見』ある読後感も」だ。

 記事は、記者がある専門家に取材した際、どこかで同じ質問をされたことがあると言われた経験を振り返る。記者は、「私の新聞の読者はまだそのことを知りませんので」とも言えたかと思う一方で、「やはり、別の媒体も含めて書かれていない『特ダネ』を目指すべきなのだろう」と結論づける。さらに、「特ダネ」にとどまらず、「これまで考えたこともなかったようなことを考える機会」となる「発見」を読者や取材対象者にも提供できればと付け加えている。

 私はまさに、記者が言う「発見」をこの記事から受け取ることができた。それは、「新聞は、他にも多数のメディアが存在する世界に立っている」という当たり前とも思えるような事実だ。この前提に立つと、新聞が直面する課題や可能性が様々に浮かび上がってくる。ここではその中から3点を挙げたい。

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 (1)読者は日々膨大な情報に接しており、何を信頼すべきか迷っているのではないか。多数のメディアの中で新聞に求められるのは、他にない「特ダネ」をさらに追加することだけではない。その逆に、むしろ、多数の情報を俯瞰(ふかん)し、読者に代わって整理し、信頼できる情報を選び出す「交通整理役」としての役割が強く求められるようになっているのではないだろうか。

 (2)多数のメディアの存在は、読者の情報ニーズが細分化・多様化していることを意味するだろう。新聞はこれに柔軟に対応すべきだ。ある読者は「もっと深く知りたい」と望み、別の読者は「もっと平易に」と求める。筆者(藤村)の中にも、このような相反する2人の読者がいる。このギャップを埋めていくには、専門性を持つ他のメディアと連携したり、テーマを掘り下げるニュースレターなど新たな発信形態に挑戦したりしてほしい。朝日新聞はすでに実践を始めているが、今後は「自前主義」にとらわれず、読者に良質な情報を届ける外部のメディアをリンクで示したり、参照すべき情報だと言及したりするなど、信頼できる情報ネットワークを自社内外に広げる試みをより積極的に進めてほしい。

 (3)報道すべき現実が複雑化し、領域横断の知見と連携が不可欠になっているのではないか。AI(人工知能)をめぐる動向などはその典型だ。技術の進展が経済や社会、さらには外交にまで及び、新聞の従来の「タテ割り」組織では対応しきれない場面も増えてきた。限られた人員の中で、専門知を横断的かつ機動的に動かせる仕組みづくりが急務だ。

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 こうした課題をめぐって、朝日新聞の前サンフランシスコ支局長・五十嵐大介記者と意見を交わす機会があった。西海岸というIT(情報技術)の最前線で取材にあたってきた同氏は、昨今のAIなどの社会的影響の広がりに対応するため、ワシントンなど東海岸や日本国内の記者らと協働する「プロジェクト型」報道や、部門の垣根を越えたゆるやかな議論の場が増えていると話す。記者間の連携だけでなく、所属部署を超えた柔軟な協働も求められる。

 最先端の情報を追うため、同時に、発信源に近い現地メディアや当事者のSNS投稿にも目配りが必要だ。土地勘のない読者にとっては、こうした記者の存在はまさに「水先案内人」だ。最近リニューアルされた朝日新聞アプリでは、「記者フォロー機能」によって、読者が気になる記者が執筆した記事を追えるだけでなく、「つぶやき」や「おたより」機能によって記者と交流もできるようになった。たとえば五十嵐氏のような専門記者をフォローしていけば、多様な情報に接する手がかりとなる。

 だからこそ、記者には、自身のメディアにとどまらず、信頼できる他のメディアなどの情報源も積極的に紹介してほしい。信頼する記者の目利きであれば、読者も安心して視野を広げられる。

 多メディア時代だからこそ、新聞記者が「信頼できるキュレーター(情報の収集・整理者)」として機能することが、いっそう大きな意味を持ってくる。

 ◆ふじむら・あつお スマートニュース社フェロー。コンピューター関連雑誌の編集者やネット専業メディアの経営者などを経て現職。1954年生まれ。

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