(社説)中国の司法 真相解明が置き去りだ
重大事件なのに、たった1日の公判で死刑判決とは。審理は尽くされたのか、疑念が拭えない。
昨年9月に中国広東省深センで日本人学校の男児が刺殺された事件は、1月24日に初公判が開かれて即日結審。その日のうちに故意殺人罪で被告の男に死刑が言い渡された。
判決は被告の動機を「ネットで注目を集めるため」と認定した。だが、その背景に何があったのか。被告の心理状態は。わからないことだらけだ。被告に対する弁護が十分だったのかも不明だ。
事実の解明にもっと時間をかけられなかったのか。まるで1月末の旧正月前の幕引きを急いだかのようだ。
昨年6月に江蘇省蘇州で起きた日本人学校送迎バスの襲撃事件も、1月9日の初公判で結審、23日に被告の男に死刑判決が出された。
驚くべき速さで審理を終えて極刑を言い渡す。それは、事件で不安を募らせる現地日本人社会が求めたことではなかったはずだ。
日本人を標的にした犯行だったのかどうかは不明のままだ。中国の社会に反日的な空気が充満しているわけではない。日本に好意を持つ中国人も少なくない。それでも、ネット上には反日情報が氾濫(はんらん)している。果たして事件との関係はなかったのか、疑問と懸念は解消されていない。
もっとも、日本との関係の有無にかかわらず、重大な刑事事件で裁判を迅速に済ませるのは、中国では決して珍しいことではない。
昨年11月、広東省珠海の広場を自動車が暴走して35人を死なせた事件は、12月27日に被告に死刑の判決が言い渡され、1月20日に刑が執行された。珠海事件の5日後に江蘇省無錫の専門学校で起きた刺殺事件も、12月17日に死刑判決、1月20日には執行という速さだった。
政権の意向に司法が影響されている可能性もある。現在の中国は、景気の低迷による社会不安が無差別犯罪を各地で生み、政権の力量が疑問視されかねない状況にある。一連の対応は、政権の強い姿勢と問題解決能力を国内向けに印象づけるためではないか。
事件の行方を注視してきた現地の日本人社会、さらに日本の社会から見れば、司法手続きのあまりの粗雑さが際立つばかりだ。このまま裁判が終わるのであれば、日本側としては、事件の真相についてさらに当局者に説明を求めていく必要がある。
安心・安全な社会への教訓は、公正で丁寧な裁判でしか得られないことを中国側は認識してほしい。
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