(社説)ガザ停戦合意 着実な履行と支援を
15カ月余の間に失われた多くの命を考えれば、遅すぎたといわざるをえない。それでも停戦にこぎ着けたことは歓迎する。肝心なのは壊滅的な人道状況を改善し、恒久的な停戦に歩を進めることだ。
イスラエルとイスラム組織ハマスが、パレスチナ自治区ガザでの停戦と、段階的な人質の解放で合意した。
合意は3段階から成る。19日からの第1段階で6週間、軍事行動を停止する。ハマスは捕らえている人質約100人のうち女性や高齢者ら33人を解放する。イスラエルは拘束しているパレスチナ人数百人を釈放し、軍をガザの人口密集地から撤収する。
第2段階で残る人質が解放され、イスラエル軍は全面的に撤退する。第3段階でガザの復興に取り組む。ただ、第2段階の進め方は第1段階の最中に協議するとされ、先行きは不透明だ。
20日の米大統領就任式までの合意実現というトランプ氏の要求に間に合わせるため、対立点が多く残る恒久停戦は先送りした側面も強い。
戦闘が休止すれば一昨年11月以来2度目になる。この時は人質100人以上が解放されたが1週間で決裂し、その後の長い殺戮(さつりく)と破壊につながった。同じ轍(てつ)を踏んでは元も子もない。
イスラエルとハマスが第1段階を着実に実行することが土台になる。その上で、相互不信が再燃しないよう、仲介役の米国、カタール、エジプトが第2段階に向けた協議を支えていく必要がある。
とりわけ1期目でイスラエル寄りの姿勢が目立ったトランプ新政権は、中東全体の安定にはガザの平和と再建が欠かせないことを理解し、息の長い関与を続けるべきだ。
戦火がやんでいる間にガザへの人道支援も急がねばならない。これまでの死者は約4万6千人、負傷者は11万人に上る。人口の9割にあたる190万人が家を追われ、命をつなぐあらゆる必需品が足りない。冬を迎えて最低気温は1ケタ台に下がり、新生児が相次いで低体温症で死亡するなど状況は悲惨を極める。
国連によると、昨年10月から昨年末の間にガザ北部へ165回、物資の搬入を試みたが、149回はイスラエル当局に拒否されたという。国連を示すUNの文字が書かれた車両がイスラエル軍に攻撃される例も後を絶たない。すでに援助に携わる360人以上が命を落とした。
ガザを封鎖し、住民の自由を奪ってきたイスラエルには、国連機関を敵視する姿勢を改め、人道支援活動の安全を保証する責務がある。