(社説)税制の改正 負担の公平 議論深めよ

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 与党が来年度の税制改正大綱をまとめた。国民民主党との協議が迷走し、あおりで懸案の先送りも相次いだ。その場しのぎでは社会課題に対処できない。公平で納得できる負担の形を示す責務を各党が思い起こすべきだ。

 少数与党になった自民・公明は、国民民主と協議を重ねた。だが、国民民主が求める大規模減税の目的や手段をめぐり、議論が混乱した。

 焦点は、所得税・住民税の基礎控除など非課税枠の拡大だった。所得税では約30年前から103万円に据え置かれており、国民民主は、最低賃金の上昇率を根拠に75万円増の178万円への引き上げを主張した。自公は123万円を提示し、交渉が決裂。大綱には自公案を盛り込んだ。

 基礎控除を一律75万円引き上げれば、国・地方の税収は年7兆~8兆円減る。税率が高いほど減税額が大きく、引き上げ幅が増せば高所得層の優遇が強まる難点もある。

 一方、自公案は生活必需品の物価上昇幅を目安にしたといい、インフレによる税負担の増加を相殺する対策としては、おおむね理にかなう。

 ただ、所得税では基礎控除と給与所得控除を計10万~20万円引き上げるが、住民税は基礎控除を据え置く。差が広がることには疑問が残る。

 19~22歳の子の年収が一定額以下の場合に親の税負担を軽くする措置について、子の年収要件の大幅緩和も盛り込んだ。国民民主が求めていた。アルバイトなどを後押しする一定の効果は見込めるだろうが、学生が長時間働かずに済むよう奨学金を充実させることが本筋のはずだ。

 大綱には、3党が方向性で合意した非課税枠のさらなる拡大やガソリン減税も記された。協議が近く再開される予定だが、妥当性や財源の精査が不可欠だ。政治的思惑を優先すれば、禍根を残す。

 ひずみは他にもある。防衛増税では、法人税たばこ税の実施時期を決めたが、所得税は3年続けて見送った。防衛費はすでに増やしているのに、無責任だ。昨年方針を決めた高校生年代の扶養控除縮小も先送りした。場当たり的で、控除から手当への置き換えの流れにも逆行する。

 政界には、負担増を伴う中長期のテーマを棚上げする空気が強い。だが税は、公的サービスに必要な財源の調達や所得格差の是正など、大切な役割を担っている。

 どれほどの負担が必要で、それをどう分かち合うか。望ましい仕組みを考え、国民の合意を得るのは議会制民主主義の根幹だ。国会で議論を尽くすよう与野党に求める。

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