(フォーラム)就活に「オヤカク」必要?:1 現状は
新卒の就職活動で、企業が保護者に内定の確認をする「オヤカク」や、保護者向けに実施する説明会(オリエンテーション)「オヤオリ」が広がっています。そこまで親がかかわる必要はあるのでしょうか? 「オヤカク」をする側、される側の声から考えます。
■過保護?でも「知らない」を解消できた ――娘の内定先から確認・説明受けた母親は
東京都内の中小企業で働く女性(25)は、就職活動の時、内定先に就職することを母に渋られた経験を持つ。
4年前、女性は大手と中小の2社から内定を得た。「将来的には退社して家業を継ぎたい」という女性のキャリアプランに否定的だった大手に対し、中小は「すごくいい夢。(在職中は)学べる環境を提供できる」と肯定してくれた。
それを理由に中小企業からの内定を受諾したものの、女性は一抹の不安を感じていた。就活中、「大手の方がいい」と助言をしていた母の存在だ。安定志向で世間体を気にするタイプ。その母に、内定先を知らせざるをえない状況が訪れた。
企業からの「内定通知書」に、親のサインを求められたのだ。女性が実家に通知書を送ると、案の定、「こっちにしたの?」と母からLINEのメッセージが届いた。女性はすでに大手の内定を辞退しており、「サインをしてくれないと就職できない」と母に頼み込んだという。
渋々サインをしたであろう母との間に、わだかまりを残したまま入社の日を迎えたくなかった。母に社内を案内してもらえないか、女性は内定先に依頼した。企業側も協力し、上京した母に人事部長も顔を見せて、「娘さんを育てますので安心してください」と語りかけた。
社内の雰囲気を自ら感じることができた母は、「みなさん、優しいね」と理解を示し、いまでは女性の仕事ぶりを楽しみにしている様子という。
一方、女性の母は、内定先を知った当時をこう振り返る。「もっと有名な大手に行けばいいのに、というのが正直な思いでした」。職場を案内されてブラック企業のような雰囲気ではないことは分かり、「名前も知らない会社」という不安は和らいだ。ただ、我が子の就活への関わり方には最後まで悩んだという。「親の方が経験や知識がある分、サポートしたいと思う半面、過保護になりすぎるのもよくない。バランスが難しい」
内定者の親への説明機会を積極的に設けている会社もある。
今年3月、タクシー大手「日本交通」の2025年卒の内々定者と、その保護者向けの会社説明会が都内で開催された。保護者4人を含む参加者18人に向けて、取締役や入社1年目の社員などが、社風や働き方について説明した。
同社によると、保護者を招いての会社説明会は16年から何度か開いてきた。「就職先選びは保護者の理解を得ながらも学生主体で行ってほしい」と担当者は強調しつつ、親への説明機会は重要と位置づける。過去の内定辞退者に理由を聞いたところ、「親の反対」が一定数あったといい、内定者の心変わりを防ぐ狙いもあるという。
近年、同社は新卒採用を強化しているが、かつての「おじさんの職場というイメージ」によって、内定を出しても親から反対される恐れがある。説明会では、若手の活躍で業界の雰囲気が変わりつつあることや、ドライバーの安全を守るための技術も進化していることなどについて時間をかけて伝え、「イメージギャップ」の解消に努めているという。
「業界に不安感を持っている保護者の安心を得るための『最後の一押し』の効果があると考えています」と採用担当者は話す。(金沢ひかり)
■保護者は「一番身近な社会人」、学生の決定に影響? 売り手市場、企業の内定辞退防止策として急増
就職情報会社「マイナビ」が就活生の保護者に実施した2023年度の意識調査(有効回答1千人)によると、内定先から「オヤカク」を受けた保護者は52.4%にのぼる。オヤカクに関する質問を設けた18年度の17.7%から大幅に増えた。
同社キャリアリサーチラボ研究員の長谷川洋介さんは、オヤカクが広がった背景には、売り手市場における採用側のニーズとコロナ禍が関係している、と分析する。
20年以降、対面中心だった採用活動はオンラインに切り替えられた。「オンラインのコミュニケーションでは、本当に入社意欲があるか、自社への好意醸成はできているのか、といった不安を企業側は感じる」という。
さらに、売り手市場で人材の獲得競争が激化する中、内定辞退を防止するための関係強化策のひとつとして、保護者との連絡や確認が利用されるようになった、と推測する。
24年卒の学生を対象にした同社の調査では、内定先を決める際の相談相手として「父親・母親」が最も多く、61.9%だった(約2500人回答)。
「一番身近な社会人が保護者。学生が親に依存していて親の意見がないと決められない、というような極端な話ではない。親子関係がフランクになり、関わり合えるポイントが増えてきているのではないか」と長谷川さん。「学生の意思決定に保護者の意見が影響する」と考えた企業側がオヤカクをするようになった、とみる。
オヤカクの方法は様々だ。24年卒の調査では、「対面式の個人面談や面接の席で確認された」が7.4%、「あなた宛の電話で確認された」が6.8%、「親または保護者の捺印(なついん)または署名を求める書類を渡された」が5.6%と続いた。厚生労働省の指針では、企業側は採用選考時、家族に関することや出生地・思想信条など本人に責任のない事項、本来自由であるべき事項について聞いてはいけないとしている。そのため、学生を通じて間接的に確認する方法が主流だという。
同様の行為はバブル期からあった。マイナビによると、1989年発行の企業向け雑誌に、「採用担当者が保護者にアプローチしていた」との記述があるという。当時も売り手市場で、採用や内定者の「囲い込み」に企業が苦労していた。その後も脈々と行われてきたなかで「オヤカク」という言葉が生まれ、コロナ禍と売り手市場で再び注目されたという。
「オヤカクをした結果、企業と学生とのコミュニケーション不足が解消したかどうかが重要です」と長谷川さんは指摘する。(河原夏季)
■子の判断で/親を説得せずにすんだ/自立できていない
アンケートには、10~20代の学生世代と50~60代の親世代を中心に337回答が集まりました。実際に「オヤカク」「オヤオリ」を経験したという人も。結果はhttps://www.asahi.com/opinion/forum/202/で読むことができます。
●どこまで効果が 子の就活でオヤカクを経験した。就職先は子の判断で決めればいいと思うし、内定が出たあと就活を続けるのも子の自由だ。オヤカク・オヤオリにどこまでの効果があるのだろうかと疑問に感じる。(神奈川、女性、50代)
●娘の内定先から招待 娘は東京での就職を選び、内定承諾した。どんな社屋でどんな雰囲気なのか、家族を招待いただいたので一緒に東京に行き、参加したい。(岡山、女性、60代)
●親と共通認識を持てた 特に志望度の高かった企業が親向けの説明会も開いていたので、遠方の親に案内を送った。親も参加し、感想を共有してくれた。必ずしも必要ではないと思うが、志望する会社に対する共通認識を持つことができたのはよかったと思っている。(北海道、女性、20代)
●会社から親へ手紙 会社から親への手紙が送られており、「これまで育てて下さった」感謝と「お子さんを安心して弊社に任せてほしい」旨が記載されていた。パンフレットなども同封しており、アピールは成功していた。自分で説明・説得しなくて済んでありがたかった。(大阪、女性、30代)
●視野を狭めて後悔 就職まで親が口を出すべきでないと思う。私は大学を決める際、親の意見が強く反映された。それは自分の視野を狭めてしまったと思っているので、就職の際には自分の意思をしっかり持って活動したいと思う。(岩手、男性、10代)
●プライバシー侵害では 子どもがオヤカク・オヤオリに同意しているなら、あっていいと思う。ただ、子どもの希望に反して、就職先の企業が親を通じて干渉するのはプライバシーの侵害だろう。(大阪、男性、60代)
●相談されたら応じる 就活への親の関わりは、子から相談された時に応じる程度が妥当だと思う。就職先は本人主体で決めるものだし、親が説明会に出る、承諾するのは自立できていないと感じる。(兵庫、女性、50代)
●知らない会社だったら 就活の際には親から口出しはほとんどせずに、娘が就職先を決めてきた。結果的に名前を聞いたことのある会社だったが、名前も知らない会社だったらオヤオリをやっていただけると安心だったかなと思う。(千葉、女性、50代)
●過保護承知で参加するかも オヤカクはやり過ぎとは思うが、子どもが就職を希望している企業がどんな企業なのかは気になる。オヤオリが開催されるのであれば、過保護承知で参加するかもしれない。(宮城、男性、50代)
●自身の経験を踏まえ 自分自身は就職氷河期で、新卒では正規雇用に就けず苦労した。今では運良く大手銀行の正社員に就いたが、新卒のときに周りが相談に乗ってくれてもよかったのにと思う。自分の娘にはこんな思いをさせないように、経験や見てきたものを踏まえて相談に乗りたい。(愛知、女性、40代)
◇アンケート「遊ばない子どもたち」「長袖を脱がない子どもたち」をhttps://www.asahi.com/opinion/forum/で実施しています。
◇来週23日は「就活に『オヤカク』必要?:2」を掲載します。
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