(パブリックエディターから 新聞と読者のあいだで)価値ある1面記事、非購読者にも 藤村厚夫
メディアから得る情報は、私たちを取り囲む社会や世界を深く理解する出発点として重要な役割を果たしている。だが、その一方で、ニュースの流通量は増えるばかりだ。膨大な情報の山に囲まれていては、その対処に疲労を覚えることもしばしばだろう。
「これは本当に起きたことか?」「この解説は正しいか?」などと、つねに情報の吟味を繰り返さなければならないのは、時に苦痛でもある。となれば、信頼のおける第三者にこの対処を委(ゆだ)ねたくなるのも当然だ。多すぎる情報をその重要性や信頼度から絞り込めるなら、読者の負担は軽減する。信頼に足るメディアが求められるゆえんだ。
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筆者が携わるスマートニュース メディア研究所が2023年に実施した「メディア価値観全国調査」(第1回、QRコード参照)では、そんな情報の価値判断をめぐって、人々の期待値が明らかとなった。
調査では、メディアをめぐって多数の問いを設けたが、端的に「新聞の1面に掲載されるニュース」を重要なニュースと見るか否かも尋ねた。「重要だ(かなり重要である+やや重要である)」と回答したのは全体で76%と高い評価を見せた。
年齢層別に見ると、より興味深い。年齢が高くなるほど「重要」と見なす割合が増えていくが、明らかなインターネット世代である18歳から29歳の層でも62%が「重要」と答えた。1面に掲載できる記事は、常設コラムなどを除き3本から4本に過ぎない。その日の最も重要な情報を優先的に伝えるべく厳選したニュースが載る新聞1面。その情報価値が広く評価されていることが確かめられたわけだ。
さらにもう一つの調査を見てみたい。日本新聞協会(広告委員会)が23年に実施した「多メディア時代における新聞の役割とメディア接触者の動向調査」(QRコード参照)である。
「メディアの印象・評価で重視すること」を尋ねると、上位から順に「情報が正確で信頼性が高い」「日常生活に役立つ」「安心できる」「中立・公正である」、そして「自分の視野を広げてくれる」と並んだ。
これを新聞とネットに分けて評価を比較すると、新聞は「安心できる」「情報が正確で信頼性が高い」で高いスコアを示し、ネットを大きく引き離す。一方、「日常生活に役立つ」「自分の視野を広げてくれる」、そして「親しみやすい」でネットが高いスコアをつけ、新聞は差をつけられた。いずれも回答者全体で見た値である。
両調査を通じて見えてくるのは、新聞に求められる役割は、正確で信頼性の高い情報発信だけではなく、情報を重要性で絞り込む(新聞社の)“価値判断そのもの”でもあるということだ。新聞1面への高評価はその最たる例だろうし、「安心できる」の高スコアにも対応する。
どの記事を1面に掲載するかは流動的で、新聞社内ではつねに侃侃諤諤(かんかんがくがく)の議論が戦わされていると、筆者の取材に応じた朝日新聞の春日芳晃・編集局長兼ゼネラルエディターは答えてくれた。掲載の基準には定式があるわけではなく、鮮度や重要性の高さ、あるいは時間をかけて取材してきた企画などの記事が、日々、1面の座を占めるべく競いあっている。
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だが、新聞が持つこの重要な価値を、新聞に日常的に触れていない人々が体験できているかといえば、心もとない。インターネットメディアの時代では、朝日新聞ならば、「朝日新聞デジタル(アプリ)」や「朝日新聞紙面ビューアー」に新聞1面に相当する機能を求めることになる。だが、有料購読者限定という壁がある。多くの非購読者は、「厳しい取捨選択を経て絞り込まれた日々の重要な情報の提供」という価値の醍醐(だいご)味を体験しないままだ。その接し方は、朝日新聞の記事であったとしても、ネットに広がる「多すぎる情報」の一部として体験するにすぎない。
その意味で、紙面ビューアーや、重要なニュースを3本に絞って解説する「ニュースの要点」を(一部機能を制限するなどして)広く無償で提供できないものか。「朝日が考える今日の重要なニュース」という指針を広く示すのだ。あわせて他のメディアの価値ある情報も選別して紹介すれば、朝日新聞の持つ取捨選択力を独立の価値として示せる。
筆者が購読する海外のメールマガジンなどでは、参照リンクを示し他メディア情報を紹介するのは、ごく一般的だ。取捨選択された重要な記事を読もうという人々に、有料購読の道が提示されるのはもちろんだ。
◆ふじむら・あつお スマートニュース社フェロー。コンピューター関連雑誌の編集者やネット専業メディアの経営者などを経て現職。1954年生まれ。
◆パブリックエディター:読者から寄せられる声をもとに、本社編集部門に意見や要望を伝える…
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