(社説)プーチン氏就任 国の未来奪う長期独裁

社説

 多大な犠牲と苦難を国民に強いておきながら、その根本にある戦争を終わらせる道筋は示さない。そんな無責任な独裁者から、国民の気持ちは早晩離れていくだろう。

 ロシアのプーチン大統領が通算5期目となる就任式に臨んだ。2030年までの任期を務めれば、旧ソ連の独裁指導者スターリンに匹敵する超長期政権となる。

 就任演説の冒頭で、プーチン氏はウクライナ侵攻参加者に謝意を表明。「共に勝利しよう」と締めくくった。

 6年前の就任演説では、生活の向上、幸福、健康を政権の最重要事項と位置づける考えを表明したが、今回、国民に寄り添う姿勢は後退した。

 むしろ現状を「困難な節目の時期」と位置づけ、これを乗り越えれば長期的計画が実現できると、根拠も示さずに団結を説く。無謀な戦争遂行を国民に強いた戦前の日本を見るかのようだ。

 表面的には、ウクライナでの戦況を立て直し、経済も回復基調にみえる。だが、ひと皮むけば困難が山積みだ。

 戦争は政治的、経済的な孤立を招いただけでない。前途ある若者を消耗品扱いして前線に送り込んでいる。母国に見切りをつけて外国に逃れる者も後を絶たない。プーチン氏は「ロシアの未来」を葬ったといえるだろう。

 戦争に公然と異を唱える動きは封じられているが、各種の世論調査によれば、多くの国民が軍事作戦の早期終結や対話の開始を望んでいるのが現実だ。

 プーチン氏は演説で「西側との対話は拒否しない」と述べてはいる。だが、自らの言い分が通らない話し合いには乗らない姿勢も強調した。実質的に対話を拒否しているのと、なんら変わらない。

 真に話し合いを望むのであれば、ウクライナでの占領地拡大にむけた戦闘をいったん中止するのが筋だろう。

 つまるところ、国内での統制強化を正当化し、停滞の責任を西側諸国に押しつけるため、戦争継続を必要としている。それが今のプーチン政権の内実ではないか。

 就任式に先立ちプーチン氏は、欧州に向けた戦術核の使用を想定した演習実施を指示した。核戦力を誇示して西側のウクライナ支援を牽制(けんせい)するのは、開戦後繰り返されてきた脅しである。核軍縮に責任を負う核保有国として極めて無責任かつ危険な姿勢だ。

 権力維持と野心実現のために、世界の安全を犠牲にし、国民の幸福を切り捨てる。そんな政権を待ち受ける運命は衰退か破綻(はたん)しかあり得ないとプーチン氏は悟るべきだ…

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