(社説)中国人学者不明 民間交流が窒息する

社説

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 日本の大学で長く教えてきた中国人学者2人が、一時帰国中に相次いで消息不明になった。拘束されたのではとの懸念も高まるが、当局から一切の説明はない。日中の教育・文化交流を妨げかねない異常な事態だ。

 亜細亜大学の范雲濤教授は昨年2月に一時帰国後、「病気療養に入る」と大学に連絡があった後に所在がわからなくなった。当局の尋問を受けたとも伝えられ、不可解な点が多い。

 范さんは国際法や政治学の専門家。1980年代から日本で教えてきた学者だ。記者会見で「状況を把握していない」としか答えない中国外務省の対応は無責任に過ぎる。

 さらに、神戸学院大学で中国文学などを教えていた胡士雲教授も、昨年8月に中国へ戻って以降、消息が途絶えたままだ。

 考えられるのは、何らかの理由で身柄が拘束されている可能性だ。中国でも、身柄拘束から裁判に至る刑事手続きが法で定められ、ある程度は公開される。だが国家安全部門が関わる場合は、秘密裏に長期間、拘束することが当たり前のように行われてきた。

 北海道教育大元教授の袁克勤さんの場合は19年、母親の葬儀への参列のため帰国し、連絡がつかなくなった。翌年に身柄が拘束されていることが判明。21年にスパイ罪で起訴された。

 ほかにも、一時帰国した中国人学者が数週間から数カ月にわたって拘束され、取り調べを受けたとみられる事例が13年以降、数件起きている。

 不透明さに拍車をかけているのが、昨年改正された反スパイ法だ。定義を明確にしないまま「国家の安全や利益」に関わる文書などの提供が広くスパイ行為とみなされたためだ。昨年3月にアステラス製薬中国法人の日本人社員が北京で拘束され、スパイ罪の疑いをかけられている。

 日本人が中国で拘束された場合は日本政府が大使館を通じて関与できるが、中国籍の場合は困難が伴う。

 范さんも胡さんも多くの学生を育て、文化交流の担い手として日中の相互理解にも多大な貢献をしてきた。日本人ビジネスマンだけでなく、日中間を行き来する中国人も不安にさせていることを中国政府は認識すべきだ。

 林芳正官房長官が范さんについて「人権にかかりうる事案であるため、関心を持って注視している」と述べたのは当然だ。日本政府は働きかけを強めてほしい。彼らが無事に家族の元に帰れるよう、日本社会も声を上げ続けねばならない。

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