(社説)アイヌ漁業権 問われる未清算の過去

社説

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 先祖たちのように、川でサケ漁をしたい――。その権利の確認を求め、北海道浦幌町のアイヌ団体が国と道を相手取って起こした訴訟の判決が先週、札幌地裁であった。

 日本も賛成した2007年の国連の「先住民族の権利に関する宣言」は、先住民族が伝統的に所有や使用をしてきた「土地や領域、資源に対する権利を有する」と定める。国際的には、先住民族が生活に必要な魚類などの自然資源を利用できる地域もある。

 江戸期に交易を通じて和人の経済社会に取り込まれたアイヌ民族は、労働力を搾取され、困窮していった。明治期には、土地政策や同化政策、伝統的な狩猟や漁労の禁止により、さらに打撃を受けた。

 国会は08年にアイヌ民族を先住民族だと認めるよう政府に求めると決議。19年にアイヌ施策推進法が制定。20年には国立施設が開業した。

 しかし、政策の基調にあるのは文化の振興で、アイヌ民族から奪ったものの清算という視座は欠けていた。今回の裁判が、不問に付されてきた先住民族に固有の権利、いわゆる先住権の問題を議論の俎上(そじょう)に載せた意義は大きい。

 判決は、アイヌの人々には固有の文化を享有する権利があり、生活や伝統の重要な部分を占めるサケ漁は最大限尊重されるべきだとしつつ、公共の河川で漁業を排他的に営むことは当然には許されないと、訴えを退けた。排他的な漁業権がおよそ成立し得ないわけではないが、設定するかは立法政策の問題で、現行法では認められないと述べた。

 政治が先住民族の権利にどう向き合うか。世界的な流れの中で、今後国際社会からも問われることになるだろう。

 過去の清算は、アイヌ民族の墓からの遺骨収集など負の歴史を持つ学界の課題でもある。日本文化人類学会は、過去の一方的な研究姿勢への謝罪を表明した。ただ、反省をふまえて同学会など4団体が検討する研究倫理指針案に対しては、「アイヌを研究対象ではなく、対等なパートナーに」といった声もあがる。

 問題は依然あるのに、同化政策や差別への恐れから、アイヌ民族の存在が見えにくくなる中、差別があることを否定する言説も生じている。

 「アイヌであることを理由として、差別することその他の権利利益を侵害する行為をしてはならない」とするアイヌ施策推進法は、5年で施行状況を検討することになっており、岸田文雄首相は5月以降それを行うと、国会で答弁した。政府が、現にある差別とその歴史的経緯から目をそむける余地はないはずだ。

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