(社説)知床事故2年 安全対策 徹底が急務だ

社説

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 北海道・知床半島沖で観光船が沈没し、26人が死亡・行方不明となった事故から、2年が過ぎた。国は小型旅客船や遊漁船の安全対策強化を打ち出したが、いまだ実現されていないことも多く、誰もが安心して利用できる状況には至っていない。対策の徹底が急務である。

 国の運輸安全委員会は、甲板上のハッチの不具合により浸水、沈没したとした。運航会社の安全管理体制の欠如についても指摘した。

 事故を受け、国土交通省ドライブレコーダーの設置といった66の再発防止策をまとめた。だが、昨年10月現在で実施済みの対策は35項目にとどまる。

 例えば、寒冷地で航行する船に「改良型救命いかだ」の搭載を義務づけることも実現していない。課題はコストで、例えば定員6人の船で約110万円かかるという。

 国交省は約5500ある遊覧船事業者のうち、寒冷地で運航する事業者に対して、購入費の3分の2を補助する仕組みを作った。だが、水産庁が管轄する約1万3千ある遊漁船事業者については未定だ。このため遊漁船事業者が反発し、いかだの開発も間に合わず、同省は今年4月の義務化を見送った。

 負担軽減のため、国交省は近くに伴走船がいる場合などに搭載義務を外す仕組みも検討している。すべての乗客の安全を確保するため、早急に対策を詰める必要がある。

 知床の観光船3社は事故後、連携して安全を確保するルールを作り、運航を再開した。複数社が天候などについて話し合って出航を判断する方法などは、各地のモデルになるかと期待された。利用者が戻らず1社が廃業したが、残る2社は安全を最優先にした運航を続けてもらいたい。

 運輸安全委は事故の要因として、国の監査や検査が不十分だった問題もとりあげた。知床事故の船を検査した日本小型船舶検査機構は、検査員を増やし、本部に設けた業務改善室が、全国の現場で検査が適切か監査を続けているという。こうした対応で検査の実効性は上がったのか、定期的に点検していくことが求められる。

 刑事責任については、第1管区海上保安本部が業務上過失致死容疑で捜査している。運航管理者だった運航会社の社長に、事故の予見可能性があったかが焦点となる。

 まもなく大型連休に入る。利用する側も船を選ぶ際、安全対策の積極的な情報公開を求める姿勢を持ちたい。そのことに、業界全体の意識改革を促す効果もあるはずだ。

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