(社説)政治資金の透明化 抜本改革抜きに信頼回復なし

社説

 歴代首相を生んだ自民党の最大派閥、安倍派による組織的な裏金づくりの発覚からまもなく5カ月になる。

 国民の政治への信頼を取り戻すには、政治資金の流れを透明化する制度改革が不可欠だ。それは最初からわかっていたはずなのに、この間の自民党の遅々とした対応は、言語道断というほかない。

 かねて「ザル法」とも言われる政治資金規正法を、この機会に抜本的に改める必要がある。いまだ不十分な実態解明にも、引き続き取り組まねばならない。岸田首相は政治生命をかけて、その重責を果たすべきだ。

 ■連座制導入は不可欠

 衆参両院に「政治改革特別委員会」が設置され、衆院では26日から、規正法改正に向けた議論が始まることになった。首相は今国会中の実現を「公約」しており、与党案づくりに向けた自民、公明両党の実務者協議も始まった。

 自民党側は(1)議員本人への罰則強化(2)外部監査の充実(3)デジタル化による透明性向上――を論点に挙げているが、党としての具体案はいまだ示されていない。

 野党各党や公明党はとっくに、それぞれの独自案を提示している。政治不信を招いた「張本人」として、その責任をどこまで自覚し、反省しているのか疑わしい。

 国会の政治倫理審査会では、会計責任者任せで、議員本人は「知らぬ存ぜぬ」という言い逃れが際立った。連座制を導入しなければ、今後も同じことが繰り返されよう。実効性のある仕組みづくりが求められる。

 また、単に「再発防止」という観点にとどまっていては、ここまで失墜した信頼の回復はおぼつかない。

 規正法は、政治資金の流れを「国民の不断の監視と批判の下」に置くことで、政治活動の公明・公正を確保することを目的に掲げている。

 「政治とカネ」をめぐる問題が生じるたびに、改正を重ねたが、巧妙に「抜け道」が残されてきた。そうした穴をふさぎ、不透明さを一掃しなければならない。

 ■「再発防止」を越えて

 そのひとつが、政党が政治家個人に支出し、その先の使途が一切不明な「政策活動費」だ。自民党では毎年10億円規模の額が、幹事長ら幹部に渡されている。

 規正法が政治家個人への寄付を禁じた際、政党によるものを例外にしたためにできた手法である。政治団体と違い、政治家個人には収支報告の義務がない。「不正の温床」ともいわれるゆえんだ。

 野党各党は「廃止」、公明党は「使途公開の義務化」を打ち出している。自民党が改革に本気なら、受け入れを決断すべきである。

 同様に、自民党だけがかたくなにブレーキをかけてきたのが、国会議員に毎月100万円が支給される「調査研究広報滞在費(旧文書通信交通滞在費=旧文通費)」の使途の公開だ。歳費法を改正し、21年秋以来の「宿題」に決着をつける時だ。

 企業・団体献金についても、リクルート事件などの反省から、政治腐敗を断ち切ることを目的のひとつとした、30年前の「政治改革」の原点に立ち戻った議論が必要だ。

 税金で賄う政党交付金を導入する一方で、政治家の「資金管理団体」への企業・団体献金は5年後の禁止を決めた。ただ、政党や政党支部への献金が認められたほか、パーティー券の購入という形で資金を提供する道も残った。

 カネで政策がゆがめられないかという疑念は根深い。朝日新聞がこのほど行った郵送世論調査では、企業団体・献金は「利益誘導につながりかねないから、認めない方がよい」が79%。「政治活動は自由だから、認めた方がよい」の15%を大きく上回った。

 ■企業献金、放置できぬ

 野党第1党の立憲民主、第2党の日本維新の会も今回、禁止を掲げる。

 首相は70年の最高裁判決で、企業の政治活動の自由が認められたことを盾に、献金禁止に否定的だ。しかし、判決は、「(金権政治や政治腐敗の)弊害に対処するには、立法政策にまつべきだ」とも指摘している。現状を放置していい理由にはならない。

 首相は国民の信頼回復や党の再生を語る際、「火の玉になって」「命がけで」といった大仰な表現を使ってきた。

 ただ、それは言葉だけで、党の聞き取り調査でも、政倫審での質疑でも、裏金づくりに関する疑問は一向に解消されず、関係者への党の処分も、「けじめ」には、ほど遠いものだった。対応を小出しにし、時間稼ぎをしているようにすら見える。

 党内の抵抗や政治的な思惑を排し、抜本改革を実現できねば、ますます国民から見放されることは間違いない。首相の覚悟が問われる。

 国会の特別委の運営にも注文がある。政治活動の土俵づくりにかかわる法改正だ。党利党略ではなく、国民の納得できる結論を導くためには、徹底した審議に加え、有識者ら第三者の知見を採り入れる工夫が欠かせない…

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