(社説)能登地震のデマ 悪質投稿 許さぬために

社説

 大きな災害が起きると根拠のないうわさやうその情報が広がりやすい。能登半島地震ではSNSを通して救助を求める偽情報が流れ、消防や警察が出動する事態もおきた。利用者も真偽を見極め、拡散に加担しないようにしたい。

 X(旧ツイッター)などに流れた偽の救助要請の多くは本物の要請をまねており、架空の住所や無関係の画像を使うものもあった。「外国人窃盗団が出現」「人工的におこされた地震」といった根拠不明の話や、支援金の詐取目的と疑われる例もあった。

 東日本大震災の時、SNSは原発事故や津波に関する有力な情報共有手段となった。当時もデマやフェイクはあったが、今回は表示回数やフォロワー数が収益につながるSNSのしくみが広範な流布の一因とも指摘される。

 政府は地震後、X、メタ、グーグル、LINEヤフーのプラットフォーム4社に、各社の利用規約などに沿った適切な対応を要請した。各社は自らの技術に責任を持ち、偽・誤情報が混乱や対応の遅れにどうつながったのか実態把握に努め、悪質な投稿には毅然(きぜん)と対処してほしい。

 偽情報は選挙妨害や国家への攻撃など様々な意図により流れ、増幅する。中でも災害時は「伝えなければ」といった心理から怪しい情報でも拡散しやすい上、流言が憎悪感情を助長する恐れがあり、より深刻だ。関東大震災では火災による爆発や井戸水の濁りが朝鮮人のせいだとするデマで多くの朝鮮人が殺傷された。教訓を胸に刻みたい。

 被災者は、正確な情報を何より求めている。デマの流布を許さないためには、公的機関が信頼できる情報の発信元として機能することが大前提だ。政府や自治体は平時から、様々な伝達手段で的確な情報を届けられているか。その点検を怠らないことも役所の大事な役割である。

 デジタル空間の情報流通について審議する総務省の有識者会議は、折しも偽情報に関する作業部会を設け、対策の検討を始めた。関係事業者にヒアリングし、夏にも報告をまとめる。偽情報の判定には難しい面もあるが、どんな法的規制や技術的対策が考えられるのか。表現の自由や各国の動向など多様な観点から議論を尽くしてほしい。

 AIで生成されるフェイク画像や映像は、即座に真偽を判別できないほど精密だ。技術の進歩でより巧妙な偽情報が出回る恐れがある。一方で誰もが発信できるSNSは安否確認や被害状況の把握、救援に役立つ。その特性を生かして上手に活用したい…

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