(社説)岐路の国際協調 力頼みの秩序にせぬために

社説

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 法の支配、民主主義、自由貿易体制。2度の大戦や冷戦を経て世界が築き上げてきた規範が今、大きく揺らぐ。

 ロシアや米国の大統領選挙をはじめ、台湾総統選、韓国総選挙など重要な選挙が世界で相次ぐ今年。力と力が対峙(たいじ)する秩序に戻るのか、国際協調に踏みとどまるのか。その岐路の年にもなる。

 ■強権が選挙を利用

 年をまたいでロシアとウクライナが激しい攻撃の応酬をした。口火を切ったのは首都キーウなどウクライナ各地で約50人の命を奪ったロシアの空爆だ。厳冬下で年を越すウクライナの市民を冷酷に痛めつけるふるまいも、プーチン大統領には自らの権力を維持する手段に過ぎない。

 3月に予定されるロシア大統領選は、プーチン氏の独裁とウクライナ侵略を正当化する茶番になるだろう。反対勢力は排除され、言論統制は一層深まった。自由で公正な選挙は望むべくもない。

 実はロシアの憲法は字面だけ見れば欧米などの民主国家と遜色はない。三権分立言論の自由をうたい、国民意思を表明する最高の手段として自由な選挙を挙げている。

 だが20年余に及ぶプーチン体制下で形骸化した。まず報道の自由が標的にされた。議会も選挙制度の改変などを経て批判勢力が議席を得ることは難しくなった。

 それでも最近の世論調査は多くのロシア国民が戦争の先行きを案じている様子を示している。不安を封じ込め、侵攻へのお墨付きを得る大統領選になりそうだ。

 憲法を改正して任期を延ばしたり、政敵を排除するため制度を変えたり。ロシアに限らず世界の強権政権にとって、選挙は権力基盤をかためる舞台回しに化しつつある。

 ■民主主義、試練に直面

 戦後世界の規範づくりを先導してきた米国にも試練の年になる。

 寛容な多元主義はトランプ前政権下で後退し、移民やマイノリティーを排斥する動きが米社会に分断を刻んだ。

 民主主義の基本原則も破られた。3年前、大統領選での敗北を認めず、支持者らが政権交代を暴力で妨げようとした議会襲撃事件が起きた。

 同盟軽視、保護貿易、核戦力を含む軍拡。トランプ政権が進めた政策のひずみを、バイデン政権は正せたわけではない。それどころか中国やロシアへの対抗を念頭に「専制主義か、民主主義か」という対立軸を打ち出し、新たな分断を助長した。

 バイデン氏当選を認めない共和党支持者がなお6割超もいる中で、秋に大統領選を迎える。トランプ氏が返り咲けば内外の分断と対立はより深まり、自由で開かれた秩序の「旗手」としての米国の足場は決定的に揺らぐだろう。

 さらに憂慮されるのが、社会の分断が、世界各地で極度の政治不信を生んでいることだ。政治が「より良い政策」を競う営為から、敵味方を決する争いへと化し、妥協の幅は狭まるばかりだ。

 既成政治に不信を募らせる層の支持は政界アウトサイダーを自認する人物に向かう。アルゼンチンでは先月、トランプ氏を崇拝する「極右」政治家が大統領の座についた。

 各国の混迷は、憲法や選挙など制度を整えるだけでは民主主義が機能しないことを示している。政治的に競い合う相手を「排除すべき敵」ではなく、正当な存在と認める自制と寛容が必要だ。

 自国第一が世界に蔓延(まんえん)した先にあるのは、協調より力がものをいう、競争と対立に満ちた弱肉強食の世界だ。中国も権威主義や覇権主義の傾向を強めている。予測困難で力頼みの秩序の到来を防ぐには、どうしたらいいのか。

 ■新興・途上国と連携を

 大国をあてにできなくなった時代の、新たな潮流に注目したい。米中ロなどには全面的にくみせず、政治的な主張を強める新興・途上国の台頭だ。近年、「グローバルサウス」と呼ばれる国々である。

 民主化の度合いや国際的な立ち位置は様々だ。だが世界の成長セクターとして民主主義を担う中間層の拡大が見込める存在でもある。

 最近の国連総会の投票では、国連憲章がうたう主権尊重や人道主義を重視する意思を多くが示した。

 ガザ情勢をめぐって国連総会は、即時の人道的停戦を求める決議を採択した。国連安全保障理事会が米国の拒否権行使で機能不全に陥る中、加盟193カ国のうち153カ国が賛成した。ロシアが拒否権を行使するウクライナ情勢でも、総会ではロシア非難など複数の決議が140以上の国の賛成で採択された。

 核兵器禁止条約の発効も後押しした。いまや規範づくりを牽引(けんいん)できる存在といってもいいだろう。

 国連総会で国際世論を形成し、紛争解決や秩序回復に生かしていく方策を模索したい。そのためには新興・途上国の存在が欠かせない。

 日本などの主要国は、「法の支配」の理念の共有と、押しつけではない細やかな協力で、これらの国々との信頼関係を築いていくべきだ。

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