元日の夕方、石川県・能登半島を震度7の地震が襲った。大きな揺れは広範囲に及び、家屋の倒壊が相次いだ。

 何より急がれるのは人命救助だ。被害が大きい珠洲、輪島、七尾各市などでは1階部分が押しつぶされた家や横倒しになった建物が多数ある。全壊した家屋は1千戸を超えるという見方もある。人命救助のめどは72時間ともいう。救助を待つ人がどれだけいるのか。通信、交通などライフラインへの打撃も大きい中、一刻も早く全容を把握し、救出を急いでほしい。

 ■「阪神」想起する被害

 東日本大震災以来となる大津波警報が出される中、着の身着のまま避難した住民も多い。被災者の生活支援も並行して進めなければならない。

 北陸地方の冷え込みは厳しく、夜は零下となることもある。体調の悪化が心配だ。温かい食べ物は供給できているか。ベッドや布団、暖房器具などは十分か。物資の供給には全力を尽くしたい。

 石川県には自衛隊が派遣され、近隣自治体などからも応援職員が入っている。

 岸田首相は関係省庁に(1)早急な状況把握(2)被災者の救命・救助に全力を(3)インフラ復旧支援――などを指示した。他の自治体とも連絡を密にし、長期的視点でこまめにニーズの把握に努めてほしい。

 被害は津波、液状化、土砂崩れなど多岐にわたる。輪島の朝市で知られる通りでは約200棟が燃える大火災となった。初期消火が追いつかず延焼した阪神大震災を思い起こさせる。道路の寸断や断水、消防の陣容が十分でない時の火の怖さを見せつけた。

 災害は時を選ばず起こる。帰省や正月休みでくつろいでいた矢先、不意を突かれた人も多いだろう。災害大国に生きる私たちは多くの経験をし、教訓を学んできた。寒波や暑さ、豪雨などといった気象現象が地震被害と重なることも念頭に、訓練を積んだ自治体も多い。それでも、国や自治体が果たすべき「公助」が追いつかない時が増えている。こういう時こそ、地域のつながりによる「共助」の力も十分に発揮したい。

 ■緊張感ある情報発信

 能登半島では約3年前から群発地震が続き、21年に震度5弱、22年に震度6弱、23年に震度6強を観測した。地下深くから上昇した水(流体)が関係していると指摘する専門家もいる。気象庁は「今回の地震との関係は不明」としているが、今後のためにもメカニズムの解明が待たれる。

 当面、1週間程度は再び震度7級の地震が起こる可能性がある、と同庁は注意を呼びかけている。

 今回揺れた地域には、停止中の北陸電力志賀原発(石川県)や、事実上の運転禁止命令が年末に解除されたばかりの東京電力柏崎刈羽原発(新潟県)がある。志賀原発では変圧器の油漏れなどがあったが、原子力規制庁によるといずれも電源は確保され、核燃料も冷却できているという。

 原発が住民の潜在的なリスクであることに変わりはない。「問題ない」というだけではなく、詳細な情報を隠さず提供し、緊張感を持って安全対策に努めてほしい。

 災害時に重要なのは正確な情報だ。1日夜、気象庁は能登で「最大震度7の地震を観測」と速報。直後に取り消した。7時間前の情報を誤って流したという。非常時の混乱はやむをえない面もあるが、情報は命を守るカギとなる。慎重の上にも慎重を期し、精度向上にあたるべきだ。

 被災者にとってSNSも有効な情報収集の手段となる一方、デマによる錯綜(さくそう)も起こり得る。真偽を見極め、自分も誤った情報を広げることにならないよう留意したい。

 ■防災態勢の点検を

 日本列島ではどこでいつ地震が起きてもおかしくない。当面は人命救助が最優先だが、今回の被害がひとごとでないことを再認識しよう。

 耐震化が進まぬ古い家屋。傾斜地の住宅と土砂災害。燃え広がりやすい木造家屋の密集。津波からの避難経路の確保。今回示されたこうした課題を私たち全員が改めて共有し、克服していきたい。

 今後30年以内に、マグニチュード7級の首都直下地震が南関東で高い確率で起きると予想され、南海トラフ地震も切迫が指摘される。

 東京都は22年、首都直下地震の被害想定を10年ぶりに見直した。それによると死者は最大約6200人、建物被害は約19万棟にのぼる。火災対策はなお重要な課題だ。急増したタワーマンションを巡っても高層階に取り残される住民への取り組みが急がれる。

 地方の高齢化、過疎化は止まらず、大都市への人口集中は進む。災害に脆弱(ぜいじゃく)な社会をどう改善していくか。正月を襲った激震を、この国の防災のあり方を再点検するきっかけとしなければならない。

 地震対策は予知中心から、発生を前提に置いてできるだけ被害を少なくする方向へと変わってきた。想定外を減らし、備えることの重要性を一人一人が念頭に置き、食料備蓄や住宅の安全点検、避難路の確認などに努めたい。