(フォーラム)ニュース離れ:2 信頼感

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 スマホを開くと関心のあるニュースが次々と流れてくる。それがアルゴリズムです。そんな仕掛けへの依存にためらいを感じる人が増えているといいます。かといってメディアへの信頼が回復しているわけでもない。ニュース報道は今、複雑な課題を抱えています。

 ■「アルゴリズムが薦める情報」にためらい 「編集者・ジャーナリスト」へも根強い不信感 ロイター調査

 自分が読むニュースを、誰に選んでもらうのか。

 ニュースといえば長い間、新聞やテレビ、ラジオが編集したものをそのまま受け入れるものだった。興味のない情報もとりあえずいったんは目に触れるし、耳に入るという環境に囲まれていた。

 しかし、デジタル時代を迎え、その一方通行的なニュースの流れが変わった。個人個人がこれまで見てきた情報を元に、興味のあるであろうニュースがスマホなどに流れてくる。アルゴリズムと呼ばれる仕組みによるものだ。自分の興味のある情報が選別されて手元に届く。それは、望ましい環境のはずだった。

 ところが、そのアルゴリズムによってニュースが届くことに懐疑的な見方が強まっているという。そんな調査結果を公表している英国のロイタージャーナリズム研究所による今年の「デジタルニュースリポート」を、前回に引き続き、ひもといてみる。

 〈自分が過去に利用したものに基づいてニュースを自動的に選んでもらうことはいい方法だ〉

 アルゴリズムについて聞いた質問に、同意したのは30%だった。2016年に比べて6ポイント減っている。

 〈ニュースが自分にカスタマイズされることで、重要な情報や反対意見を見逃すことが心配か〉

 この質問に対しても、「重要な情報の見逃しを心配(48%)」「反対意見の見逃しを心配(46%)」と、アルゴリズムへの疑問がいずれも半数近くにのぼる。

 この結果からは、アルゴリズム依存への疑いとためらいが見てとれる。では、その思いが、従来型のマスメディアへの回帰につながっているのかといえば、残念ながらそうではないようだ。

 冒頭の質問で、ニュースを得るいい方法として「編集者やジャーナリスト」を選んだ人は、アルゴリズムより少ない27%で、2016年から3ポイント減っている。一方で、「友人による履歴」を選んだのは19%だった。

 ニュースの選別を編集者やジャーナリストに託す割合が減っているのは、ニュースへの信頼度の軽重に重なっているように見える。

 〈ほとんどの場合、大抵のニュースは信頼できる〉

 この質問に同意したのは40%で、前年から2ポイント減った。日本は42%だった。

 このリポートについて前回は、あえてニュースを避けようとする人が増えており、その理由として気分に悪影響を与える暗い話題が多いことやメディア不信などが挙げられていることを報告した。

 今年のリポートについて、研究所は「ジャーナリズムと市民を結ぶ『公共のつながり』がほころびつつある」と指摘。「多くの人が求めているのは、ニュースの量を増やすことではなく、より身近に感じられるニュースや私たちが直面する複雑な問題を理解するのに役立つニュースである」としている。(喜園尚史)

 ■視野狭まってない?情報は比べないと コメンテーターも務めるお笑い芸人・山田ルイ53世さん

 お笑いコンビ「髭(ひげ)男爵」の山田ルイ53世さんは情報番組のコメンテーターも務め、日ごろからニュースに接しています。雑誌連載が「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」作品賞を受賞し、物書きでもある山田さんに、ニュース報道について思うことを聞きました。

     ◇

 ――先ほど、情報番組の生放送を終えたばかりとか。

 はい。今日はイスラエルガザの紛争、マイナンバーカード保険証、減税、スーダン情勢などが話題となりました。

 ――暗いニュースに疲れませんか。

 うんざりする部分はもちろんあります。一方で、大谷翔平さんや藤井聡太さんの活躍といった「明るいニュース」も供給過多、しんどいなと感じています。

 ――というと?

 親御さんはこう子育てしたとか、チームメートや師匠も登場し、こうやって天才が生まれた、みたいな報道を連日やられると子育てのハードルも上がります。

 ――受け手としては、どうしたらよいでしょうか。

 情報デバイスはどんどん進化し、今後もいろいろなニュースがもっと飛び込んでくるようになる。どうあがいても避けることは出来ません。結局、情報を受け取る側が自らコントロールするしかないわけですが、それには、リテラシーの会得が必須です。

 アプリを開発する企業サイドは、良いも悪いも、人々の興味をスマホ画面に引きつけ、長く見させ続けることに血道を上げています。そうやって研究を重ねたアルゴリズムが組み込まれているのだということを意識した方がいい。

 ――アルゴリズム、ですか?

 便利であることは否定できない。ただ、「あなたが好きなのは、これでしょ」と見透かされ、誘導されている気色悪さはある。ひっきりなしに玄関のチャイムが鳴っているのと同じで、息苦しさがあります。似たようなニュースや情報が送られるということは、実は、どんどんこちらの視野が狭くなっているのだと自覚すべきかもしれません。好みじゃないものも含め、もっと幅広い選択肢が確保される状況も欲しいですね。

 ――偏向している、などとメディア不信も指摘されています。

 諦めではないですが、僕は思想や意見のない記事などないと思っています。記者一個人や組織全体の思想や心情、取材に臨むときの目線、目の凝らし方など、どうしても角度がつくものです。なので、同じニュースでも、そういう角度のついた情報を二つ、三つ並べたときの「交点」に真実が立ち現れてくるし、情報が立体的になると思っています。

 ――著書「一発屋芸人列伝」について、「うそのない、そのままの現実をいかに面白く書くかを意識した」と語っていましたね。

 お笑い芸人はエピソードトークをしますが、場を盛り上げるために話に多少の色をつけることはあっても、芸人ほど事実を重視している人種も実は珍しい。過剰に話を盛る、うそをつくことに対する「寒さ」、嫌悪感は人一倍です。

 報道に通じるか分かりませんが、うまい酒を造るとき、どれだけ米を磨いても、芯のおいしいところは残すわけです。紙幅の都合で原稿を削ったとしても、真実・事実の芯は必ず残す、ましてや、うそはあり得ない。報道もしかり。そういう縛りがあるからこそ、面白くしゃべれるし、ものが書ける面がありませんか。たとえ指先だけでも真実・事実に引っかかっているという自負、信頼感。それでこそ、物事の重みを伝えられるのではないでしょうか。(聞き手・宮崎陽介)

 ■実のある論評少ない/幅広い話題知りたくて紙媒体

 アンケートでは、「ニュースを避ける人が増えている」理由として、メディアの信頼度やニュースの希望のなさを挙げた人が多数に上りました。結果はhttps://www.asahi.com/opinion/forum/188/で読むことができます。

 ●ニュースの境界あいまい ニュースなのか、ゴシップや娯楽記事なのか、その境界があいまいなテレビ番組や新聞・雑誌記事、ネットニュースが増えている。アナウンサーやコメンテーター、ライターが国民の声として意見を述べることも多いが、納得いかないことが多い。(東京、男性、40代)

 ●権力となれ合い 国内の政治経済のニュースでは、当局の発表をそのまま伝え、実のある論評を加えることが少ないと感じる。その他、ジャニーズのニュースも突破口はBBCから始まったことなど、日本のメディアと「権力」の間に、ある種のなれ合いや奇妙な不文律が存在するようだ。(栃木、男性、50代)

 ●事実と主張は分けて ニュース報道において、事実と主張を分けず、あえて混同させるような姿勢を感じる。メディアごとの主張はあってもいいが、事実と主張は分けて報じるべきだ。(東京、男性、40代)

 ●自分に都合のよい情報 スマホなどでニュースを見る人は、興味があったり、自分に都合のよい考えだったりする情報を見せられていることに気付かない人が多い。そのため、自分とは政治的志向の異なる報道を偏向と批判する印象が強い。(埼玉、50代)

 ●意図しないトピックを あえて紙媒体の新聞を購読している。自分が選択的に読むニュース、アルゴリズムであがってくるニュース以外にも、意図せず目に入ってくるトピックを増やしたいからだ。教育の現場でも、情報やニュースについて考える機会を持つことが必要では。(福岡、女性、40代)

 ●「偏ったニュース」離れでは 「ニュース離れ」ではなく、「偏ったニュース」離れだと考えています。例えば夫婦別姓に関するニュースに関して、賛成の意見ばかりを取り上げ、反対意見は片隅に言い訳程度に添えているだけ。「質の高いニュース」と「意識の高い情報発信」とは似て非なるものです。(京都、男性、50代)

 ●情報リテラシー教育を ニュース離れというよりは、SNSなどで自分の興味関心のある情報を読むことに時間を費やしているから相対的にニュースから離れているのでは。SNSのニュースには事実かどうか疑わしいものも混じっているので、若い世代には情報リテラシー教育を進めることが、ニュース離れを引き留める一手になる。(兵庫、男性、30代)

 ◇アンケート「『望まぬ妊娠』は誰の責任?」「どう思う? 60歳の崖」をhttps://www.asahi.com/opinion/forum/で募集しています。

 ◇来週11月19日は「ニュース離れ:3」を掲載します。

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