(社説)ライドシェア 利用者本位で検討を

社説

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 自家用車を使って一般の人が有料で客を運ぶ「ライドシェア」について、政府が導入に向けた検討を本格化させる。タクシー運転手の不足と高齢化が深刻さを増す中で、公共交通の一翼として、小回りのきく自動車での移動手段をどう確保していくか。安全への配慮をはじめ、利用者本位で議論を深め、幅広い合意を得ていく必要がある。

 急いでいるのに、駅前にはタクシー待ちの長蛇の列――。コロナ禍からの経済活動の再開や訪日外国人旅行者の回復で、都市部を中心にこんな光景があちこちで見られる。タクシーへの需要が増えるかたわら、運転手の数は2019年から2割減ったことが背景にある。

 こうした状況を受け、岸田首相はきのうの所信表明演説で「ライドシェアの課題に取り組む」と表明した。河野太郎デジタル相の下で議論を加速させる考えだ。

 過疎地などには、既に同様の仕組みがある。政府が2006年に始めた「自家用有償旅客運送制度」で、市町村やNPO法人など約700団体が運営している。

 タクシーのような二種免許や営業車は不要。運行管理や車両整備の責任者が選任され、地域の住民が務める運転者の病気や疲労度合い、飲酒の有無を確認する。一定条件以上の任意保険加入が必須で、事故時の責任は運営団体が負う。タクシー会社と競合しないことが重視され、業界も加わる会議で協議が調うことなどが条件になっている。

 政府はこの制度を観光地や都市部でも使いやすいようにし、運行管理をタクシー会社に任せるなど「日本版ライドシェア」として地域や時間帯を限って導入する考えだ。

 料金の水準や運転者の取り分、安全・安心への対策、高齢者や障害者への利用支援など、「自家用有償」の現状も踏まえて詰めるべき点は多い。都市部では過疎地と違ってタクシーが普及し、交通量も多く、特有の懸念もある。タクシー運転手の賃金に与える影響は、その一つだ。

 海外への旅行や出張でライドシェアを利用し、簡単なスマホ操作で乗車できる便利さを実感した人は少なくないだろう。事故歴や乗客による評価に基づき運転者を選別するなど、安全性やサービスの向上にも努めているようだ。

 そうした先進事例に学びつつ、デジタル技術も活用して新たなサービスを作っていくことは大切だ。ただ、社会に定着する仕組みとするには、さまざまな懸念に丁寧に向き合うことが不可欠である。それを肝に銘じてほしい。

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