(社説)木原防衛相 自衛隊 政治利用は慎め

社説

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 実力組織である自衛隊には、とりわけ厳格な政治的中立性が求められる。にもかかわらず、指揮監督する立場の防衛相が、自衛隊を引き合いに、自党の候補者への支持を呼びかけるとは、政治利用以外の何ものでもあるまい。極めて軽率で不見識である。

 木原稔防衛相が15日、長崎県佐世保市での衆院長崎4区補欠選挙の応援演説で、自民党の候補者の名前を挙げたうえで、「しっかり応援していただくことが、自衛隊並びにその家族のご苦労に報いることになる」と訴えた。

 22日に投開票される衆院長崎4区と参院徳島・高知選挙区の2補選は、いずれも与野党一騎打ちの構図で、岸田首相の今後の政権運営や衆院解散戦略を左右するとみられている。長崎4区で最大の有権者を抱える佐世保市には、海上自衛隊などの基地があり、自衛隊への理解を投票につなげたいという思惑は明白だ。

 木原氏は、昨年末の安保3文書の改定や武器輸出緩和の取り組みなどを紹介したうえで、防衛費の増額に反対する野党に「佐世保の代表になってほしくない」と述べた。

 専守防衛を空洞化させる安保政策の転換や防衛費の「倍増」には、国民の間に賛否両論がある。政権の施策に反対する人々を切り捨てるかのような発言は、異論にも丁寧に向き合い、幅広い合意をめざすべき政府の一員としての責務にもとる。

 野党などから批判が寄せられると、木原氏は翌16日、「自衛官とその家族への敬意と感謝を申し上げた。真意が伝わらなかった」と述べ、発言を「撤回」した。ただ、「誤解を生むのであれば」という、政治家の釈明にお定まりの前置きつきだ。何が問題とされているのかに、正面から向き合っておらず、形だけの対応というほかない。

 防衛相の応援演説といえば、17年の東京都議選の際、当時の稲田朋美防衛相が「防衛省、自衛隊、防衛大臣、自民党としてもお願いしたい」と訴えたことがあった。行政の中立性を逸脱し、自衛隊を政治利用するものだと厳しい批判を浴びた。閣僚の選挙応援はよくあることだが、過去の教訓を謙虚に受け止めるなら、言動には細心の注意が求められていたはずだ。

 記者団から見解を問われた岸田首相は16日、木原氏の釈明と撤回を「承知している」として、「引き続き職務にあたってもらいたい」と述べるだけだった。自衛隊の最高指揮官であり、閣僚の任命権者だというのに、この素っ気なさでは、首相自身の見識も問われることになろう。

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