(社説)刑事IT化 権利保障にどう生かす

 情報通信技術を捜査、公判など刑事手続きにどう活用するか、法制審議会の部会で検討が進んでいる。

 司法のIT化は民事分野で先行したが、逮捕・勾留などの権利の制限が伴う刑事分野では、効率化だけでなく、手続きの適正さ、容疑者・被告の権利保障を高めることも主眼におかなければならない。

 検討課題は多くの項目にわたるが、前提となるのは紙ベースだった書面の電子データ化と、直接対面でしていたことのオンライン化だ。

 現在の証拠開示は、供述調書など膨大な書面の複写が必要で、被告側の負担が重い。IT化はこれを軽減し、迅速で充実した公判につながりうる。被告の防御権がきちんと守られるシステムを構築する必要がある。

 勾留請求された容疑者の陳述を裁判官が聴く勾留質問、公判の証人尋問も一定の条件下でオンライン化される方向だ。一方、警察署・拘置所にいる容疑者・被告と弁護人の「オンライン接見」は検討はされたものの、事務局の法務省が今月示した素案から外れた。だがこれこそ、実現を急ぐべき課題ではないのか。

 身体拘束下でも立会人なく弁護人に相談し、その援助を受けられる接見交通権は、憲法が保障する権利だ。とりわけ逮捕後ただちに初回の接見を行う重要さについても、最高裁は判例で言及している。

 だが現実には、弁護士が警察署などに赴くのに時間がかかり、速やかな助言ができない例が少なくない。離島などの遠隔地ではとくに深刻だ。

 さらに、警察の留置施設や拘置支所の集約化が進む。4月時点で拘置支所は10年前より9カ所少ない94カ所。法務省は、うち4カ所で収容業務を停止したとし、今年11月には長崎拘置支所(長崎市)も停止し、市内から車で30~50分かかる長崎刑務所(諫早市)に機能を移すという。

 接見は対面が望ましいが、オンライン接見の選択肢があれば、接見の権利が失われることは防げる。弁護士が近くにある刑事施設内の「アクセスポイント」に出向いて画像や音声をつなぐなど、別人によるなりすましのリスクを解消する検討もされてきた。

 捜査当局側は設備や人手の確保の難しさを挙げ、オンライン接見の法制化に反対してきた。だが、施行まで期間を置き、必要性の高い地域から段階的に試行することで対応できるのではないか。

 取り調べでやってもいない罪を「自白」させられた事例も重ねられてきた。弁護人の支援に確実につなぐ環境整備は、政府の責務である…

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