(社説)子連れ不可 多様性を支える議会に

社説

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 自分ならどうしただろう。考えさせられる。

 愛知県豊橋市で議会一般質問の順番を決める抽選会に、女性市議の子連れ参加が認められず、質問できなくなってしまったというのだ。

 市議は今春当選した37歳。9月議会で一般質問を準備していたら、抽選の当日未明に2歳の長女が発熱。夫や保育園に預けられず議会に連れて行った。だが同伴は拒まれた。別室待機の案が出たが一人にさせられず、抽選に参加できなくなった。

 議会側に相談したのは、抽選の15分前。突然の前例のない相談で、議長らの困惑も分からないではない。コロナ感染の心配もあったという。

 とはいえ、ことは抽選への参加だ。質疑の本番ではない。質問順の決め方は、通告順、会派順など、議会によって異なる。さいたま市議会は抽選だが、参加しなかったら残ったくじ番号を割り当てる。豊橋市議会にも代理抽選という方法があった。

 SNSでは、市議に批判的な書き込みも多い。「迷惑をかけるな」というわけだ。

 思わぬ時に子どもが熱を出す、という困りごとは、多くの家庭が経験してきた。乗り越えてきた人たちは、市議に甘さを感じるのか。当の市議も「もっと早く電話して相談するべきだった」と話す。

 各自にできることはある。

 でも、周りに迷惑をかけないようにという圧力が女性の社会参加を阻んできたことを忘れてはいけない。その行き着く先は、男だけの、若者の少ない昔ながらの議会だ。それでは社会を反映し、代表しているとはとてもいえない。

 今や共働き世帯が1千万世帯を超える。男性が外で働き専業主婦のいる世帯の倍以上だ。ひとり親が子育てする家庭も130万世帯。家族を介護したり、障害や病気を抱えたりしながら働く人もいる。多様な暮らしを支える議会には、多様な人材が必要だ。

 今春の統一選で、過半数を女性が占める市議会が誕生した。豊橋市議会も36人中女性が6人から8人に増え、水防訓練で女性議員の着替え部屋を用意するようになった。

 この女性市議も共稼ぎ、2児の母だ。普通の人がどこまで戦えるか、選挙に挑戦した。地盤も選挙カーも後援会も事務所もなし。街頭で訴えて2525票を得た。いまも午後5時に議会が終わらないと、子どものお迎えの時間が気になる。

 そういう当事者にこそ働き方改革、子育て施策をはじめ、いまの仕組みを変える議論に入ってほしい。そのためにみんなで知恵を絞る時だ。

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