(社説)辺野古・沖縄県敗訴 自治を軽視する国策追認だ

社説

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 行政権のチェックという司法の役割を放棄し、憲法に記された地方自治の本旨も軽視して政府の政策を追認した。将来に禍根を残す判決だ。

 沖縄県の米軍普天間基地を名護市辺野古沖に移す計画をめぐり、工事の設計変更申請の不承認を県が貫いていたのに対し、国土交通相が承認するよう「是正指示」した。

 これを取り消すよう県は求めたが、最高裁はきのう、訴えを退けた。海底の軟弱地盤を改良する政府の設計変更を最高裁が事実上容認したのは初めて。8年に及ぶ県と国の訴訟は大きな節目を迎えた。

 判決は、基地建設の是非に対する判断を示しておらず、強引に工事を進めてきた国のやり方がすべて正当化されたと受けとめるわけにはいかない。政府は、普天間の危険性を速やかに取り除くという原点に戻り、代替案を探るべきだ。

 ■役割放棄した司法

 県は不承認の理由として、地盤の調査不足や環境破壊への配慮の欠如、長期の工事への懸念をあげた。住民の安全を守るため、工事の内容を点検するのは知事の当然の仕事だ。公有水面埋立法でも、環境保全や災害防止への配慮は重要な要件だ。だが最高裁はこうした点に触れず、「行政庁の裁決は関係行政庁を拘束する」といった形式論を述べるだけだった。あまりにそっけなく、門前払いに等しい。

 是正指示とともに県が取り消しを求めていた国交相の裁決をめぐる訴えに至っては、最高裁は上告を受理すらしなかった。

 不承認に対しては、事業主体の防衛省沖縄防衛局が「私人」の立場で不服を申し立て、「身内」にあたる国交相が審査庁として判断。県の処分を取り消す裁決を出した。だが裁決後も県が承認せず、国交相が是正指示した。政府内部での審査のキャッチボールには、「国による私人なりすまし」「権利救済制度の濫用(らんよう)だ」と多くの行政法学者が批判の声明文を出している。

 法の趣旨の逸脱になぜ明確に釘を刺さないのか。過去の関連訴訟でも最高裁は入り口論で再三、訴えを退けた。政府から離れた視点で行政をただし、独立した司法の存在を示すべきなのに残念だ。

 ■代執行は対立招く

 防衛省はすでに埋め立ての準備に着手しており、予定海域のサンゴの移植も許可するよう県に迫っている。

 今後の県の方針次第では代執行による工事強行も考えられる。そうなれば対立は決定的となる。いま国に必要なのはなぜこれほど長期化したのか、真摯(しんし)に省みることだ。

 埋め立ての賛否を問う19年の県民投票では有効投票総数の7割以上が反対した。玉城デニー知事は建設阻止を公約にかかげて昨年、再選された。こうした民意に政府は耳を貸そうとしなかった。

 また地盤改良には7万本以上の杭を打ち込む必要があり、当初の申請段階で5年とされた工期は倍近くに延びている。普天間の危険性の早期除去という目標にもはや整合しないことは明らかだ。

 予定地の大浦湾周辺では絶滅危惧種など5300種以上の生物が確認されており、自然への損害も計り知れない。

 18年から始まった埋め立ては浅瀬の広がる南側では陸地化が進むが、軟弱地盤がある大浦湾側の工事は止まっている。決して引き返せないわけではない。岸田首相は自ら対話に乗り出すべきだ。

 不承認という「最後のカード」を否定された玉城知事は難しい選択を迫られる。だが、基地が騒音や事故、土地の利用制限など大きな負担を地元に強いることは、訴訟を通じ改めて示された。県の代表として国を対話に引き出し、同時に裁判以外でも様々な手段を探り、是正を求め続けねばならない。

 ■課題を共有する必要

 一連の裁判は、国と地方の関係をめぐる自治の現状と課題を浮き彫りにした。

 国と自治体が対等な立場で責任を果たす。そんな理念のもと、00年にできた総務省の国地方係争処理委員会に、県は8回も審査の申し立てをした。委員会は当初、対話による決着も求めたが、国がかたくなな姿勢をかえず、調停役の機能は果たされなかった。

 この国の政府には地方の民意を反映させるルートがないのか。そんな声すら聞かれる。目詰まりをただすには第三者機関としての独立性は保たれているのか、委員の選定に問題はないかなど、改善点を洗い出す必要がある。

 国との訴訟が始まってまもない16年、当時の翁長雄志知事は国地方係争処理委で訴えた。「埋め立てを強行するなら、人類共通の財産を地球上から消失させた壮大な愚行として後世に語り継がれる」「かけがえのない自然と生態系への破壊指示で、地方自治の破壊そのものではないか」

 この問題意識は本土の人間も共有すべきものだ。

 安全保障は国の専管事項としても、自治体には住民生活を守る立場で国の政策の問題点を指摘し、改善を求める義務と責任がある。そのことを国は肝に銘じるべきだ。

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