(社説)自衛隊員不足 防衛力強化 もろい足元
岸田首相が「防衛力の抜本的強化」の旗を振る足元で、それを担う自衛官の人手不足が常態化している。歯止めのかからぬ少子化で若者の数が減り、人材の獲得競争は社会全体で激しさを増す一方だ。身の丈を超えた規模の追求は、持続可能性に疑問符をつけかねない。
自衛官の2022年度の定数は約24万7千人だが、実数は約22万8千人と約1万9千人少ない。過去10年、充足率は91~94%程度で推移。18歳以上が対象となる任期制の自衛官候補生の採用年齢の上限を、18年に26歳から32歳に引き上げたものの、改善は乏しく、応募者数はこの10年で3割ほど減った。
防衛省は今年2月、「人的基盤の強化に関する有識者検討会」を設置。先月まとめられた報告書は冒頭、「どれだけ高度な装備品等を揃(そろ)えようと、運用する人材の確保がままならなければ、防衛力を発揮することはできない」として、人材確保は装備品の整備と並ぶ「車の両輪」と位置づけた。
給与・手当の見直しやハラスメントの根絶を含む勤務・生活環境の改善、育児・介護との両立や再就職への支援強化などを提言。サイバーや宇宙といった分野で、民間の高度人材を、任期付きの高い給与で採用する制度の新設も求めた。
若者の生活スタイルや意識を念頭に、基地や駐屯地内への居住の義務付けや、髪形や髪色のルールなどの服務規律の見直しも盛り込まれた。
さまざまな取り組みを、地道に進める必要はある。ただ、採用難の根本には、出生数の減少による若者人口の先細りという厳然たる現実がある。ハラスメントの一掃は当然だが、処遇や職場環境の手直しだけで、問題が解決するわけではない。
省力化を可能な限り進めつつ、限られた資源を優先順位をつけて配分する。人口減を踏まえた防衛力の整備という考え方も必要なのではないか。
安保3文書の改定を受け、防衛力抜本的強化「元年」と位置づけた今年度予算では、敵基地攻撃に使える長射程ミサイルの導入など装備の拡充に比べ、人的基盤の強化に向けた具体策は乏しかった。装備と要員のバランスを欠いたままでは、防衛力強化の看板も「絵に描いた餅」になるだろう。
そもそも、防衛費の大幅増は、「総額ありき」で、現場の声を反映した「積み上げ」が不十分だった、という指摘がある。上から性急に増やした任務や装備が、第一線に無理を強いてはいないか。人口にしろ、経済・財政にしろ、国の力に見合った、地に足のついた態勢の整備こそが求められる。