(社説)概算要求基準 歳出「正常化」できるか
政府が、来年度の予算編成に向けた基本方針を決めた。コロナ禍以降、膨張した歳出について「経済が正常化する中で、平時に戻していく」という。当然であり、かけ声倒れに終われば財政の持続性が問われる。具体的な道筋を示すべきだ。
各省庁の予算要求に制限をかける概算要求基準も閣議了解した。配分にメリハリをつけつつ全体の規模を抑える役割があるはずだが、相変わらず例外や抜け穴が目立つ。歳出の肥大化が続く懸念が強い。
最たるものは、政権が2倍近くへの拡大を打ち出した防衛費を、別枠扱いにした点だ。安定財源を確保しないまま「見切り発車」したのを、予算要求のルールでも追認した。
防衛費の大幅増はすでに今年度予算から始まり、他の重要分野や財政健全化にしわ寄せを及ぼしつつある。身の丈に合わない予算増を無理に続ければ、政策資源の配分をゆがめる。弊害を直視し、再考すべきだ。
防衛費増と、同様に別枠にした子ども政策の財源について、政府は幅広い「歳出改革」による捻出を当て込んでいる。であれば、減らせる予算の徹底的な洗い出しが必須のはずだ。
ところがこの点で、概算要求基準は従来の方式から踏み込まなかった。各省庁に裁量性が高い経費の一律1割減を求めたうえで、削減額の3倍分までの要求を「重要政策」の特別枠で認める。枠は計約4兆円で「新しい資本主義」関連など対象が広い。これで大きな財源をひねり出せるのか、疑問が大きい。
歳出の「正常化」への試金石は、高騰したガソリンや電気・ガス料金の補助金の扱いだ。兆円単位の巨費を投じてきたが、秋に期限を迎える。
政府は、物価高の激変緩和措置を段階的に縮小・廃止し、影響が大きい層への支援に絞る方針を示した。物価動向が見通しにくい中で、低所得者層への支えは必要だが、一律の補助金をいつまでも続けるわけにはいかない。与党の反発も予想される中、方針を貫けるのか。
社会保障など他の分野でも、物価高や賃金上昇に応じた増額を求める声は強まっている。合理的な範囲にとどめられるか。首相の指導力が問われる。
20年度以降、コロナ禍や物価高への対応で、政府の歳出は数十兆円規模で膨らんだ。先進国で最悪水準の借金が、さらに積み上がっている。
この状況を漫然と続けるのは、将来世代への背信にほかならない。政策の必要性や優先度を厳しく見極め、真に大切な政策を始めるときは安定財源を確保する。そうした当たり前の財政運営に、立ち戻る時である。